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小島夕子SS
Sweet Call
「もう一度デジャ・ヴ」より
狩野雅明
Up:1999.9.14 Thu


可惜夜の月と花とを同じくあわれ知れらむ人に見せばや
(源信明・後撰集)


小島夕子SS
Sweet Call
「もう一度デジャ・ヴ」より



夜の帳が下り、ふと顔を上げると今日も宙の名画座が開店しています。
いつのまにか宙の名画座はその展示物を変えていました。
窓の外では小さな小さな楽団が恋の夜想曲を奏でます。
それは蒼く揺れる月まで届くような美しい音色の呼び声。
奏でる音色は誰を呼んでいるのですか。
あの人の呼び声はまだ私に届きません。

机の上で湯気を揺らすマグカップの向こうでウサギがこっそりとこちらを覗いています。
お腹に抱えた時計は几帳面に時を刻んでいきます。
あなたの魔法で時計を止めてくれませんか。
溜息の数がこれ以上増えないように。
それが出来ないなら雲に乗って私に逢いに来て。

それは何の変哲も無い着信音。
でも私だけをそっと呼んでくれる甘いメロディー。

「はい。小島です」
「狩野だけど」
「あ、達也君」
「あぁ。もう休んでたのか」
「うぅん。ぼぉ〜としてた。それで、何か用?」
「あ、あぁ・・・あぁ・・・いや、用は無いんだけど・・・ただ・・・・・・」
「ただ?」
「ただな、夕子の声が・・・その・・・聞きたかったんだ」
「え?」
「あぁぁぁ、何でも無い。何でも無い。さっきのは忘れてくれ」

忘れないよ。私もそう思ってたんだから。
だから、もっと貴方の声を聞かせて。

「月の船」
「月の船?」
「うん。今日は月が船みたい」
「・・・・・・本当だ。なぁ、お前は月の船でどこに行きたい?」
「私は・・・・・・達也君の所に行きたい」
「え?」
「月の船に乗って、達也君に会いに行きたい」
「夕子・・・」
「私ね、達也君といるとき時々思うの。今、私は夢を見ているんじゃないか、本当の私は深い眠りの森にいるんじゃなかって。でも夢だったとしても、この夢から覚めないように私のことをずっと抱きしめていてほしいって」
「・・・・・・夢じゃない。夢じゃないさ。俺はお前の側にいる。必ずいる」
「・・・うん。信じてる」

達也君の力強い言葉がうれしくて涙腺が緩んでしまいます。
満たされていく心。
月のように満ちる心は銀色に染まっていくのでしょうか。
私だけの魔法の時間。
どうか魔法を解かないでください。

「ねぇ。私のこと好き?」

今夜も私だけにそっと聴かせてください。
あなたのSweet Callを。

―Sweet Call了―



*****後書き*****
短い。他の作品も短いけど、今回は特に短い。
甘口のSS、所謂こっぱ系SSを書こうと始めたのですが・・・
それほどこっぱずかしくも甘くもなりませんでしたね。
やはり私にこっぱ系は無理だったか・・・
え〜このSSは某るり嬢のCDの曲を下敷きにしています。
この後書きを見る前にそれに気づいた方、あなたはきっと駄目人間です(爆)。
早期の社会復帰に努力してください(笑)。


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