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ゲイリー・スタントンSS
餓鬼
「青のフェルマータ」より
狩野雅明
Up:2001.9.9 SUN


この世は不幸を糧に生きている。
『幸せ』は何処にでも売っている。
コンビニ。スーパー。デパート。ブティック。
『愛』は周りに溢れている。
書籍。音楽。TV。映画。
『幸せ』と『愛』を両手一杯にかき集め
そして、人は不幸を生み出す。

ゲイリー・スタントンSS
餓鬼  〜Kick Me〜
「青のフェルマータ」より


飢えだ。
俺は飢えていた。
ただ、ひたすら、切実に。
そう、俺は"何か"に飢えていた。

〜・赤い雫・〜
「こいよ……」
俺はそいつに向かって兆発する。
そいつは拳を握り締めファイティングポーズを崩さない。
その構えは力みすぎず、緩すぎず。
良い構えだ。今日は楽しませてもらえそうだ。
ピリピリした緊張感が場の空気を固まらせる。
いいね、いいねぇ…ぞくぞくするねぇ…こいや、こいやぁ…
そして、
空気が
     流れる。
           流れる。
        音。
     触覚。
   痛覚。
  音。
     音。
              遠くに。
       近くに。
ほらほら、まだ終わりじゃねえぞっ。
     感じる。
感じる。
          そこも。
    ここも。
視野に入る赤いモノ。
フン、俺の血も赤いんだな。
あの人は人外のモノを見るような目で俺を見ていたんだぜ。
俺には緑色の血が流れているのかと思っていたよ。

さて、お前の血は何色だ?

〜・軋む白・〜
ベットが軋む。
淫靡な臭いを振りまきながら腰をふる。
どこまでも貪欲に俺を要求する。
悦楽に酔いしれる雌が羞恥の欠片も無く啼く。
俺は容赦無く責め立てる。
指が、舌が、腰が、猛り狂う肉欲のビートを刻む。
「あぁっあぁっ、そん…こ…れ…る、壊れちゃうぅ…あぁっ……」
いいさ、壊れろ、壊れてしまえ。
身も、心も、何もかも、皆壊れてしまえ。
何度も身体を入れ替え、強く、深く、俺を穿つ。
「んん…あぁ、ゲイリー…ゲイリィ…」
うわ言のように俺を呼ぶ口を唇で塞ぐ。
そして、止めを穿つ。
上り詰めたそいつは弛緩した肢体をベットに沈めた。

「何故、あなたはそんな哀しい目をしているの?」
そう言ったのは何て女だったかな。

〜・青の世界・〜
『よう、Boy。また来たな』
青の世界で彼はそう言った。
あぁ、また遊ばせてもらいに来たよ。
『そうか、歓迎するよ』
ありがとう。
彼は俺に巻き付くかのような近さで周ると1つ鳴く。
『ついてきな』
促された通りに、優美に尾鰭を動かす彼に着いていった。

そこは生命の揺り篭。
あらゆる命が生まれ、育ち、戦い、結ばれ、死に逝く生命の庭。
咲き乱れる命の花園。
『どうだい』
彼は微笑んだ。
あぁ、素晴らしいよ……
理屈なんか要らない。捻じれた感情なんて邪魔だ。
ただ、ただ、感じる。
俺も、この庭の住人であることを。



『違う』
『お前はここにはいられない』

誰だ?
答えは、簡単だった。
ボンベ残量の警告用にセットしたアラームが鳴っていた。

……そう、俺はここの住人じゃないんだ。

〜・黒い髪・〜
リオという女がいる。
黒い髪の日本人だ。
言葉の紡ぎかたを忘れた女。
だが、今、彼女は俺の下で啼いている。
快感の戦慄きに声をあげている。
歓喜だ。歓喜だった。俺は歓喜に震えていた。
初めてかもしれない。女の悦ぶ姿に嬉しいと感じたのは。
いつからリオを意識したのかなんてもう覚えていない。
何かを感じていた。
何かに惹かれていた。
同じ傷を抱えた者が持つシンパシーなのかもしれない。
いや、理屈なんてどうでもいい。

彼女が、リオが欲しかった。

そして、俺を受け入れてくれたのだ。
やっと、俺のものになったんだ。
「呼んでくれよ……なぁ、俺を呼べよ」
さぁ、呼んでくれ。俺の名を呼んで俺のものになったことを確認させてくれ。
俺は待った。俺の望みが、待ち焦がれた瞬間が来ることを。

拒絶。

そう、それは拒絶だった。
リオの顔に浮かぶのは拒絶、そして後悔。

なんだよ…なんだよなんだよなんだよなんだよなんだよっ
どういうことだよっ俺を受け入れてくれたんじゃないのか?
俺のことは屁とも思ってなかったのか?ただの気まぐれか?
今日の、今までの、あれは何だったんだよっ

拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶
拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶

嘘だと言ってくれ、嘘だと言ってくれよ…お前は俺に惚れている。JBにじゃない!

拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶
拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶

裏切るのか?お前も俺を裏切るのかよ!捨てていくのかよ!!

拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶
拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶拒絶

答えろ!答えろ!!リオ!!!
そして、俺を振り払い、リオの乗った車は行ってしまった。
お前もか、お前も俺を置いていくのか…リオ!

〜・そして、銀の・〜
俺を餓鬼だと言った奴がいた。
どんなに快楽を貪っても決して満足できない。
苦痛ばかり感じているように見えるのだそうだ。
ふん、そうなのか。良い話しを聴かせてもらったよって、
その仏教徒の野郎をぶっ飛ばしてやったけどな。お布施だってね。
そうさ、俺は餓鬼だ。
満たされないココロを持て余して、当り散らして、食い散らかす餓鬼そのものだ。
でも、見つけたんだよ。
俺を満たしてくれる人を。
リオ…お前だけだ。お前だけだよ。俺を満たしてくれるのは。
満たしてくれよ。満たしておくれよ。俺だけをさ。
プレゼント、受け取ってくれただろうか。
最高にイカスだろ。イルカに包んだプレゼントなんてさ。
血曇りの取れたダイビングナイフは光を反射して銀に光る。
さて、行こうか。
あいつの所に。

「愛してるぜ…リオ……」

< 餓鬼(了)>

* ***後書き****
昏い、くらぁ〜い話しです。
ゲイリー視点で「青のフェルマータ」を読むとリオという女はとんでもない悪女です。
「青のフェルマータ」のキーワードは「Love me」でしょう。
物語の登場人物達はそれぞれ「Love me」と叫んでいるように見えます。
私は中でもゲイリーは最も声高にそう叫んでいる人物だと思います。
しかし、彼の場合は「Love me」ではなく「Kick me」なのです。
文字通り「私を蹴って」ってことです。
わざと社会規範を破る心理の状態を表す心理学用語でもあります。
彼は社会規範を破ることの裏側で自分を受け入れてくれる人を探していたのではないでしょうか。
そして、彼は餓鬼とならん。



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