ショート・ショート 光さす庭 「おいしいコーヒーのいれ方」より
秋の胞子を運ぶ風が夏の終わりをふれて巡る。 私は娘を抱いて庭を見渡す縁側に座っていた。 全てを私に預けて眠る命が、ここにいる。 有限の時間と、無限の可能性を与えられたあなた。 その瞳に何を映していくのでしょう。 その心に何を刻んでいくのでしょう。 その手に何を掴んでいくのでしょう。 沢山の喜びと、沢山の悲しみを感じて 無数の傷と、無数の想いをその胸に抱いて あなたは1人の人となるのでしょうね。 いつか、私の手を離れ、 この光さす庭があなたの思い出になっても、 忘れないでください。 私が、あなたを愛していることを。 『わたしもお母さんのこと、大好きだよ』 その声にはっと顔をあげると、1人の少女が立っていた。 あの人と同じ優しい眼差しを持った少女は柔らかに笑うと静かに消えた。 それは、光さす庭が見せた幻。 そして、永遠の約束が交わされた瞬間。 ― 私は永遠にあなたを愛しています ― <光さす庭 了 >