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ショート・ショート
冬洗雨
プレゼント2
狩野雅明
Up:2002.3.27 Wed


ショート・ショート
冬洗雨 ふゆあらいのあめ
原田SS・プレゼント2

「ついてねーな…」
シャッターの下りた空店舗の軒先で呟いた。
傘無しで歩くにはつらい強さの雨が軒先に当たりパタパタと音を立てている。
ここ最近は春の陽気が続いていたが急に冬へ戻ったかのような天気。
天気予報なんか見ることもなく慌てて飛び出したらこの様だ。
「ついてねーな…」
ちらりと腕時計を見る。遅刻確定。やれやれだ。
吐いた溜め息が白く広がり消えていく。

恨めしく空を見上げる。ふと視界に入る銀色の糸。
あの冬の日がフラッシュバックする。
「冬美ちゃん…か?」
「はい?呼びましたか?」
その声に驚いて下を見るとポンチョを着た女の子が俺を見上げていた。
「おぉぉぉぉいつのまにっ」
「ついさっきです。お久しぶりです。原田さん」
ポンチョのフードを外すと行儀良く頭を下げる。綺麗な銀髪がさらさらと流れる。
「あ、あぁ、久しぶり」
「どうしたんですか?こんな所で」
「雨宿り。急に降られちゃってね」
「あ、すいません。それは私の所為です」
「冬美ちゃんの?」
「はい。今、私が冬の間に撒いた冬の結晶を洗い流しているところなんです。それで雨が降っているんです」
「冬の結晶?」
これです。と言って彼女は自分の手のひらに無色透明の結晶を出現させた。
初冬から真冬にかけて撒いたこの結晶を次のコのために洗い流さなければいけないのだという。
「この雨が止んだら、ここでの私仕事は終わりです」
「最後の大掃除ってわけだ」
「はい。立つ鳥後を濁さずです」
優しい微笑みに青いリボンが揺れた。
「そのリボン、まだしてくれていたんだ」
「はい…これは…私の宝物ですから…」
彼女ははにかんだ表情で愛おしそうにリボンを触る。
その表情に俺の心臓が跳ねた。
「そ、そう言ってもらえると送った甲斐があったよ」
「はい…」
甘い沈黙。
されど、そんな時間というのは長く続かないのが世の常で。
彼女はぴくりと何かに気づいたように顔を上げた。
「すいません。呼ばれたみたいなのでこれで失礼します」
「あぁ、そうか。うん。じゃ、また」
「はい。また、いつか、会いましょう……約束…ですよ」
「あぁ、約束だ」
「はいっ」
花開くような笑みを浮かべ彼女は背景に溶け込むように消えていった。

空を見上げる。雨が降っている。
冬の名残の銀の雨。
なんて表現したら、和泉や星野は『何か変なもの食べてませんか!』なんて騒ぐんだろうな。
独りそんなことを考えて笑う。
最寄りのコンビニまでの距離を計算してみる。
「いくかっ」
冬洗いの雨の中を俺は走り出した。

< 冬洗雨 (了)>

****後書き****
「プレゼント」続編ですが・・・原田歳時記って感じですね。
季節変わりの雨を見ていて思いつくままに、つらつらと。



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