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S.S
音の無い言の葉
「もうひとつの夢」
狩野雅明
Up:2002.7.13 Sat


ショート・ショート
音の無い言の葉
「もうひとつの夢」より


愛しいという気持ちはどうしたら伝わるのだろう。
それは、君の温もりを取り戻した僕の悩み事。
君が柔らかな微笑みを向けてくれるたびに僕は百万遍の「愛してる」を君に送る。
だけど、聴覚を失った君にそれは届かない。
ただ音も無く舞い落ちる言の葉がひと抱え僕と君の間に降り積もる。

花屋をしている君の手はいつも荒れ気味で。
それでも、僕はそんな君の手を愛しく思う。
僕はシーツの海に浮かぶ君の手を取り、口付けていく。

小指。

薬指。

中指。

人差し指。

親指。

中身の無い言葉が溢れるこの世界で、僕の気持ちも言葉にすれば嘘に染まりそうで。
指を絡めて君を引き寄せる。
触れ合う肌の温もりが僕らの気持ちを伝え、君の潤んだ瞳が僕らの音の無い会話を促す。

よせてはかえす悦びの中で僕らは音無い言の葉を交換し続ける。

音の無い言の葉で百万遍の「愛してる」を君に送ろう。
百万回の昼と夜が君への愛しさで包まれるように。

<了>

***あとがき***
元ネタの「むひとつの夢」って何?と思った方もいるのではないでしょうか。
これは「キスまでの距離」のJブックス版に収録されている短編です。
「洋介くんの幸運」に続きまたまた使ってしまいました。
女性にとってこういう愛され方ってどうなんでしょう?
毒男の気持ち悪い妄想でしかないのかな?
ま、ここのところ短編が続いたので次は中篇を書きたいですね。
リクエスト受付中です。



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