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キスまで何マイル(2)
「おいしいコーヒーのいれ方」
狩野雅明
Up:2008.11.16 SUN


人は、出会うべき時に出会うべき人と出会うという。
では、僕が彼女と出会ったのは、
彼女達と出会ったのは、
必然だったというのだろうか。

おいしいコーヒーの入れ方 IF
キスまで何マイル (2)
「おいしいコーヒーの入れ方」より


「隣、空いてますか」
大学の入学式。
初めての背広とネクタイがしっくりこないのを感じながら目の前の女の子に声を かけた。
少々出遅れた僕が入学式の会場に到着した時には既に座りやすい場所にある席は 埋まっていた。
それでもどこか良い席はないかと探した末にショートヘアの女の子の隣を選んだ。
「空いてますよ」
その返答を聞いて腰を落ち着ける。
受付の人から渡された今日のスケジュールを確かめていると隣の女の子が周りと 話す声がぽつぽつと耳に入ってくる。
『どこの出身ですか』とか『一人暮らしなんですか』とか。
「あなたはどこの出身ですか」
ふいに声をかけられそちらに向くと、彼女のくりくりとした目が僕を見ている。
「東京だけど」
「わっ同じだ。私も東京」
「え、東京のどこ」
「光が丘」
「あれ、もしかしてご近所さん?」
僕が二丁目で彼女が三丁目。
すごい偶然だねと彼女はコロコロと笑う。
「私、星野りつ子。よろしくね」
それが彼女との出会いだった。

初めての履修届けにサークル決め。
大学と下宿先を中心とした生活圏の確立。
電車通学とテレビ番組の編成に慣れようと四苦八苦しているうちに大学の桜並木 は葉桜になる。
生まれも育ちも東京の僕にはあまり関係の無い話だが、地方出身の新入生には結 構戸惑うことも多いらしい。

「経済概論、休講だって」
歩いてきた僕を見つけて学生課の掲示板を指しながら星野はそう言った。
隣に並び彼女の指先を辿ると確かに休講のお知らせが張ってある。
「どうする?」
ついてないねと言うような口調で星野が聞いてくる。
「星野の予定は?」
「無いよ」
僕は時計を見る。まだ昼飯って時間じゃないけど……
「学食いくか…」
「そうだね」

結局、昼飯時前の閑散とした学食で星野と雑談をしながら時間を潰すことにした。
そこでふと気づいた。お互い同性の友人がいないわけでもないのに良く一緒にい るなと。
「星野って、女にしちゃさばけてて話しやすいよな。男連中からそう言われな い?」
星野へ素朴な疑問を投げてみる。
「う〜ん…それが困りものなのよね」
星野は複雑な表情で溜息を吐く。
自分のさばけた性格が災いして付き合う男子と衝突してしまうのだという。
女らしくないとか、可愛げがないとか、一言多いとか。
「まあ、全部認めますけどね」
ヤレヤレですよと軽口のように彼女は言った。
「ふうん……」
カツ丼にヨーグルトシェイクを合わせてくるセンスは良く分からないけど……
僕が星野のことを女らしくないとか可愛げがないとか思ったことはない。
だいたい、ことさら『男らしさ』『女らしさ』なんてつまらないことを口にする 奴は自信がないだけなんだと思う。
自分は女らしくしてもらえないと男らしく出来ませんって言っているようなもの じゃないか。
まぁ、俺もエラそうなことは言えないけどさ。
「だからさ」
僕の言葉にちょっと驚いたような顔をしている彼女に僕は言った。
「いいよ、そんなつまんない言葉にとらわれなくて。星野は、ただ星野らしくし ていればそれでいいんじゃないの?なんか自分で言ってて恥ずかしいけど、でも これはマジでさ」
だから気にするなよと僕は言った。
「あ…ありがとう…」
そう言う彼女の頬が微かに赤らんでいるのに気づいて僕の心臓が跳ねる。
やっぱり、何か、凄く、恥ずかしい。
「そう言って貰ったの…初めて…ありがとう…」
その時の彼女のはにかんだような笑顔が素直に可愛いと思ったのは秘密にしてお こう。
そんなことを口走ってしまったら最後、ずっと彼女にからかわれそうだから。


*** あとがき ***
シリーズ2話目です。
ここまでは同人誌での内容とそれほど変わっていません。
問題はこれからで、どうやって話を膨らませるか悩み中です。
シリーズ最後までお楽しみ頂ければ幸いです。
< 2008/11/16 初稿UP >



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