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コーヒーが飲みたくなった
「おいしいコーヒーのいれ方」より
LaughCat
Up:1999.11.11 Thu


 コーヒーが飲みたくなった


火に架けたやかんがシュンシュンと言う音を立てはじめた。
1、…2、…3、…
およそ1分間沸騰させてから火を止める。
薬缶はそのままにして豆の用意にかかる。
ブラジル豆の容器を取り出し、蓋を開けたところで手を止める。
……。
思い直して、新しい豆の袋を開けた。
…今日は特別だ。
いつもよりキリマンジャロを少なめに、モカマタリを増やしてミルに入れ、ゆっくりとハンドルを回す。
カリカリカリカリ…
速過ぎず、遅過ぎず、一定のリズムを保ちながらハンドルを回す。
カリカリカリカリ…
あいつもだいぶできる様になったよな
カリカリカリ…
ふと時計に目をやる。すぐに立ち上がり今挽いたばかりの豆をネルに入れ、先程のやかんのお湯をリングの3分の1ほどの円を描きながら、豆を湿らせていく。
2周程したところで手を止め、立ち上る湯気の様子を眺める。
11、…12、…13、
再びお湯を注ぎ、手を止めてからウォーマーを開けてカップを一つ取り出し、戻って来てサーバーから今いれたばかりのコーヒーを静かに注いでいく。
そう、この香りだった。
一口啜りゆっくりと飲み込む。

タンタンタン
何かを叩く音。店の入り口を叩く音だ。
誰だろう?
休業の札を出してあるので普通の客ではない。
すぐにその場に向かって鍵を開ける。
「お前か」
由里子だった。
「『お前か』じゃないでしょう。あなたこそ何やっているのよ」
「支度だよ」
「式にも出ずに?」
「式には出た」
「10分もいなかったでしょう」
「支度があるからな」
俺がそういうと由里子も諦めたらしく
「あと30分よ」と言って中に入り厨房に向かった。
すれ違いざまに「まったく不器用なんだから」と呟いているのも聞えていたが、俺はあえて何も言わなかった。

30分後
カランコロンと鳴るドアベルの音と共に10人程の『客』が入って来た。
その先頭に立つ二人が、無言でカウンターに腰を掛け、残りはそれぞれテーブル席に着く
俺は先程挽いた豆でコーヒーをいれ、最初にカウンターの二人にだけそれを出す。
「あれっ?マスター」
着慣れないタキシードに身を包んだ勝利が先に口を開くが、視線で合図を送ると、何かに気付いたかのように口を閉ざした。
「マスター、このコーヒー」
白いワンピースを着たかれんも、このコーヒーに気付いたらしく、俺に訪ねるように話し掛けてきたが、俺はそれを手で制し
「多分、最初で最後だろうな」と切り出した。
「今日のコーヒーはお前の兄としていれたんだ」


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