究JYお勉強ページにようこそ。

為になるお話その11 エライオソーム・「アリ散布型植物」とはrev.a

■石垣の細い隙間に咲くスミレ

スミレの種が黒いツブツブで、はじけ飛んで陣地を広げていることはご存知でしょうか?植物はいろんな方法で種子を遠くにばら撒きます。一番うまい方法は動物の毛にくっついて遠くに運ばれる仕組みでしょうか。スミレは種子をばら撒くと言っても、せいぜい50センチも離れた場所に飛ばすのがやっとではないでしょうか。それでも道路の平面上のみならずその上部の石垣の細い隙間に根を張っているのを見ることがあります。誰かがここに運ばない限り無理なことだと思いませんか?

リュウキュウコスミレ

この石垣の隙間にスミレの種子を運んだ流通業者はアリなのです。アリがスミレの種子を好んで食べると言う話はあまり聞いたことが無いでしょう。アリはスミレの種子を運ぶ理由があるのです。それはおいしいから?スミレの種子がおいしいわけではありません、そうならば種子は食べられてしまいますから。種子の先にアリが好む物質が付いているからなのです。その部分を「種枕」と呼びます。そう種子の枕(まくら)なのです。でこの種枕を構成している、アリが好む物質をエライオソームと呼びます。

この種枕の部分から運送の過程で種子本体が外れて落ちてしまい、石垣の隙間などで育ったことがこのスミレの生育場所の謎だったのです。アリは運送業としては失格ですが、巣の中に運良く運び込まれなかったものが発芽のチャンスを貰うことが出来るのようです、またアリの巣近辺なら、アリのフンなど有機肥料に満ちた非常に確かな生育場所のはずです。

■カタクリの場合

いくつかの植物がスミレと同様に、栄養分に富むエライオソームをアリに提供することでその陣地を広げています。
「蟻散布」と名付けられたこの方法は一種の植物と動物の共生と考えることが出来ます。おいしいこと、栄養分があることは自分で移動手段を持たない植物にとってたいへん重要な移動のための「切符」であり、「利用料金」であるのです。

カタクリ

この蟻散布をしている植物のひとつにカタクリがあります。春を代表する植物であるカタクリは早春から咲き始め、初夏には種子を稔らせてアリの活動にあとを任せると、長い眠りについてしまいます。スミレのように閉鎖花をつけてまで種子を作らないのですから、その場所や時期はアリの活動に大いに委ねることとなります。
つまりアリの巣づくり、食料の貯め込みの時期と結実の時期が合っていなければならないわけです。

■アリの仕事

エライオソームを好む動物にはどんなものがいるのでしょう。
昆虫なら意外と多いと思われますが、ナメクジなどもそうです。え?葉を食べてしまうナメクジが種子を散布してくれる?いえ、ナメクジの場合は観察する限りでは種子ごと食べてしまいそうです。つまりナメクジが食べにくる前にアリの巣に運ばれるほうがカタクリやスミレにとって発芽のチャンスが残ると言うものではないでしょうか。
良く開墾した日当たりの良い場所にスミレの仲間が一斉に咲くことがあります。あれはアリの巣に貯められていた種子がやと陽の目を見たのだと思いつきました。その日のためにスミレはじっとアリの巣の中で眠っていたのでしょう。これ勝手な想像ですけどね。

もっともアリはエライオソームのみを切り離して巣の中に持ちこむというのが定説のようで、種子はほとんど巣の周辺に捨てられるのだそうです。種子ばかり山積みにされて発芽できれば良いのですが、自然の実生のパーセンテージが10%にも満たないわけは、廃棄物処理業者としてのアリの仕事内容はあまり植物にとって歓迎できないやり方なのかもしれません。
しかしアリがエライオソームを運ぶ様子を観察した人の話では気まぐれな行動ではなく、一斉に運搬しているアリを見たということですから、この連鎖はかなり確実な、長い歴史を持つ作業だと言えそうです。

■アリ散布型の植物

では、エライオソームを種子の一部につけている植物にはどんなものがあるのでしょう。
あまり寒冷地や高山帯の植物ではなく、温帯つまりアリがたくさん生息する地域が良いにこしたことはありません。そういう意味ではカタクリは寒い場所の植物と言うイメージがあります。でも種子が熟れる頃はアリが活発に動き回っていれば良いのです。
このような植物はカタクリに代表されるユリ科、前述のスミレ科をはじめケシ科でも確認されています。


カタクリの実から出てきた種子(6月下旬)
先端についているのがエライオソーム。この実では28個の種子が出てきた。

■まとめ
種子がその縄張りを広げるために、私達はいろんな方法があることを知っています。タンポポなどは綿毛を風に乗せてふわふわと遊覧飛行しますし、川の流れや海流に乗ってぷかぷか浮いている種子もあります。カエデの種子のようにストンと上から落ちるようでも、ある程度羽根を回転させて時間をかけて落ちてゆくものもあります。
種子のそんな拡散方法を自分でもまとめて見てください。オナモミやネズミノブラジャー(ヌスビトハギとも言う)などのくっつき戦術、インパチェンスやツリフネソウのはじけ飛び、マングローブのお勉強で説明した「胎生」の種子。いやはやいろんな手段を講じて植物はそのテリトリーを広げています。

しかし、動物に食べられるように果肉をつけたものは「肉を切らせて骨を砕く」とでも言いましょうか、小さな犠牲をしいられても、動物の体内を通過して発芽に良い条件を得てから排泄される仕組みを選んだのです。
エライオソームは動物ではなく小さな昆虫、アリにその役目を担ってもらいテリトリーを広げて行く。植物のどこでこんなこと考えるのでしょうね。もちろんアリはそんな仕事をしているなんて、これっぽっちも考えていないでしょうに。

いえ、考えているかもしれませんよ。だって昆虫の中で一番考えることが出来る虫なのですから。時々首をかしげて立ち止まる昆虫。
だって名前からして 「 アリ?」

おあとがよろしいようで・・・<<究JYお勉強のページ>