QJYつうしん 29号 休日は山にいます
ガイドブックに無い秘境
PART2
名山
猿政山
高野町には東西に名峰がある。西の大万木山、東の猿政山。ともに1200mを越える広島県の屋根でもある。また、それぞれ島根と県境を分かち、植生豊かなブナ林を持つ山の代表格だ。つまり島根県の屋根でもある。
役場を過ぎて東に向かうと湯川の小学校が見えてくる。次の左折可能な道を曲がり、あとは一本道。開拓村らしき奥深い集落も過ぎると道路は舗装も無くなり、対向車が来るとどうしようか、と言う狭い道となる。でも心配無用、向こうは行き止まりだから。
第3号でお知らせしたカリガネソウの群落のあった場所を過ぎ行き止まりまでゆくと広い駐車スペースがある。もう何度ここに車を停め、辺りの平和でおいしい空気を吸ったことだろう。
ひとつ気がかりは正面にそびえる猿政山の周囲が植林のために丸坊主にされていること。かろうじて残った広葉樹の林にウグイスの声が響く。目の前の景色の谷間という谷間からは水がこんこんと流れ出て、車を停めた傍の川に流れ込む。
山の紹介
やれ困った。ガイドブックに載っていないものだから資料不足。
岩波書店の日本古典文学体系・風土記の地図でも御坂山?として?マークがついているのだから、古典からして資料不足。
今、NKHラジオ第2放送でやっている「出雲風土記を読む」によると「御坂山(みさかやま) 郡家(こおりのみやけ)の西南(ひつじさる)のかた五十三里なり。すなわち、此の山に神の御門(みと)あり。故、御坂(みさか)といふ。備後(きびのみちのしり)と出雲の堺なり。塩味葛(えびかずら)あり。」と出ている。
そう、ここは神の山なのだ。
御坂山が佐留麻佐山となり猿政山となったことをはじめ、この歴史をQJYの紙面で説明するには少々無理があり、この山の神秘性とともに隠しておきたいところでもある。(つまり、分からない時はこう言って逃げる。)
なお、えびかずらは広辞苑で調べるとぶどうのこと、だそうだ。
島根県側からのルートは可部屋集成館から登ると言う事らしいが広島県側のルートがヤブコギなのだから登山人口の少ない島根県からのヤブコギ道は果たして使用可能なのか。
1年前の青テープ
実は昨年5月の連休でここを訪れている。わかりにくい登山道の取り付きを朽ち木に青いテープを巻き、わかり易くしておいた。その後、QJYつうしん第3号で出掛けたときに周囲の草が伸びているのを見ている。
今回訪れて驚いたのはツタウルシが絡み付きテープが見えないこと、元気の良さそうなツタウルシだから触るのはよそう。(かぶれの木)
取り付き道はヒノキの植林がされたばかりの尾根筋を登る。昨年は鳴いているウグイスを間近に見て、コブシの花と伸びきらないタラの木を眺めながら登ったものだ。
なお今回紹介するルートは中国新聞の友谷敏雄氏から教わったもので一般的な登山ルートとは異なる。
約45分の急登を終え原生林の本来の登山口に辿り着く。ここからは先人の残した赤テープが頼り。
サンカヨウとヤマシャクヤク
登り口で楽しみにしていた花があった。
裏日本特産の植物、メギ科のサンカヨウだ。
この花には何かしら思い入れのような感情を抱く。昔、初めて大万木山に登った時、実を付けたこの植物の独特の葉を見たとき、大山を南限とする深山植物サンカヨウに違いないと確信した。
次の年わくわくしながら登ってみるとまだ辺り一面傘のお化けが伸びたところ。しかしこれがじつに可愛らしい。そして次の週、再び登り、やっと恋人に巡り会えた。
本に書いてあった「南限」を更新したことをまるで自分が記録を破ったような興奮で感激したことを今も忘れない。
そして次の週はもう花は散ってしまっていた。
今、目の前にあるサンカヨウの花びらはもう散っている。しかし、これから山頂に向かい、高度が増すと梅のような白い花が迎えてくれるはず。
今年はこの花を吉和村で発見したので、南限説を更に更新してしまった。
そしてその合間にヤマシャクヤクのふんわりと膨らんだ白い花があった。これももう今日が最後の見納めか。
足元にフデリンドウが咲いていた。これから尾根道までの急坂は滑りやすく、下る時のことを心配するとやめようかと思うくらいだ。
タチカメバソウが群落を作り、つらい急登を慰めてくれる。そして、あるある、サンカヨウの満開大群落が。
優しい尾根道
1時間をかけてゆっくり登り詰めると、意外になだらかな尾根道が現れる。
ヤブコギも思った程ではない。すぐに出発点を振返れる開けた場所にも出る。キクザキイチゲらしい葉を見て、早春の頃も来なければと汗を拭きながら考えた。
山頂へはもう半時間、ここまで来れば、熊以外恐いものナシ。
再びサンカヨウが現れ白い花を見せてくれた。空気が乾燥していて汗をかいても気持ち良く乾いてくれる。
キアゲハや黒いアゲハ(特定出来ず)が飛び交う。すぐ近辺のキツツキの音。
ハウチワカエデやトチノキ、クロモジに囲まれた山頂は広くはないが出雲側の景色が広がる。今日は春霞で見晴らしが悪いのは残念。
妙にしーんとすると熊さんが出そうな雰囲気は相変わらずあるが、時折登山者の訪れた形跡もある。
下山時に10名のおばさんグループと出合ったのは、熊より恐かったが、周囲の山の植林による開発の惨状をを見て、熊もつらいだろう、と思ったのは事実。
展望が良すぎて植林だらけの無残なハゲ山が目に付く。それでなくとも隣は高野毛無山。
帰りの急坂は案の定、足首に響く。
登山用の杖は必需品、役に立つこと間違いなし。登山初心者は決して登ってはならない山でもある。足元ばかり見ていて道を誤る危険性は一人歩きの登山者もノー。
楽しい山歩きは、無事に家に帰り着くことで落着する。
水の多い山でもある。猿政を中心に寄り添うように渓谷を成している。
一説では「規模雄大な滝が5つあり、大滝、比市滝、五十丈滝、三段滝、口滝という。」(駒原邦一郎著:私の村のはなし)。
帰りは手付かずのタラの芽を少々戴いて足場を確かめながら下山した。