QJYつうしん 142号 休日は山にいます 2000年3月9日
梅の香東京サ行って遊ぶ場所 小石川植物園の春の散歩
快晴の一日
「東京大学大学院 理学系研究科附属植物園」 と言っても、一般の人にはピンと来ないが「小石川植物園」とか「小石川薬草園」と言えば一度は聞いたことがあるのでは無いか。
東京の山手線の内側にあるのだから、何かの用事で東京に出かけた人なら、いつでも寄り道できる。
前日、都内の地下鉄で死亡者の出る脱線事故があり、乗車するのがちょっと怖いが、地下鉄の都営三田線「白山駅」から下町情緒の残る蓮華寺坂を500m歩けば、今都内の中ほどに自分がいることを忘れてしまいそうなくらい、田舎町にいる感覚になってしまう。
くすりや、酒屋、小さなアパートなどの町並みを抜け、白い(くすんでちっとも白くないのだが)壁に囲まれたその場所は、広大な敷地と大木が立ち並び野鳥の群がる別天地になっているのである。
小さな入り口。向かいのくすりやさんで購入した切符を差し出してそこに入る。
330円と言う値段はともかく、なぜ向いのくすりやさんで切符を買わなければならないのか?など疑問点は残るのだが、敷地内に入ってしまったとたん、植物好きの人ならすっかり魅了されてしまうほどたくさんの樹木が迎えてくれる。
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それぞれ名札をつけて立っているから、ひとつひとつ確認して歩かなければ済まなくなる。
園内の散歩
とりあえず入門して左側の道を歩くこととする。
すぐにトイレがあるので、普通はこのルートを歩くのがいいようだ。
ツバキの大木がたくさんの花をつけている。びっくりするのがシロヤブツバキ。実際に見るのは初めてだ。足元にはオオイヌノフグリやハコベなど春の野花がたくさん咲いている。
右手には大木の立ち並ぶ雑木林。
少し進むと池があり、小グループが池を囲んで観察会を開いていた。池のそばにはラクウショウが枝を水面にくっつけんばかりに伸ばしている。この樹木はメタセコイヤと見間違いやすいのだが厳密には葉の形が少し違う。大きな違いは膝根(しっこん)と言って地面に飛び出した子供の膝(ひざ)に似た根の一部。ラクウショウにはこれがある。
ツツジのシーズンには沖縄特産のサキシマツツジまである一帯が楽しいことだろう。何しろ植物園の樹木の楽しさは、生意気を言えば玄人好みの楽しさなのかもしれない。
シマトネリコ、オオトネリコからチョウセンレンギョウまでモクセイ科の植物ばかり並べてあったりする。だから中部地方と対馬でしか見つかっていない通称ナンジャモンジャノキ、ヒトツバタゴもここでは見ることが出来るわけだ。
歩いていくと梅林があった。この時期に来て良かったと思うくらい見事に咲いた紅梅白梅。それぞれに品種名が表記してある。梅の品種などどうでもいいのだが、こうして植物公園をいつも覗いているとだんだん品種にも詳しくなるから不思議。
男女を問わず、一人でリュックを背負って歩いている人、カメラと三脚を重たそうに持って歩いている人。
都心にいることを忘れる。
野鳥たちもここの貴重さが分かるのだろう。ヒヨドリ、ムクドリがあちこちで飛び交っている。特にヒヨドリがツバキの花の中に頭を突っ込んでいる様は、まるで花の写真を撮っている自分の姿を見ているようで、笑ってしまう。
梅林には何故かサクラの木もたくさん植えてあった。イヌザクラの大木に試験管ブラシの花が咲くと見事なことだろう。おや咲いているサクラもあるぞ。沖縄の緋寒サクラだ。濃いピンクの花の満開の季節に今年の一月には名護に行って来た。
コヒガンザクラなど早春のサクラも咲いている。
黄色い花は何だろう。
サンシュユの黄色だ。アテツマンサクも植えてある。何でもありの植物園。コーカサスサワグルミの大木にはシジュウカラが来て忙しそうに鳴いていた。
梅林から松林と続き、日本庭園が見えてきた。
その先の赤レンガの建物は旧東京医学校本館だ。寛永15年に徳川幕府によって開かれた小石川薬園は、養生所の時代を経て明治には文部省の直轄となる。 旧東京医学校本館
明治21年には入園料を取って規則も定められていたというから、いったいここにどれほどの人たちがやって来たのだろう。
ユリノキにはチューリップの花の名残りが残っている。根元に落ちた実は結局誰かが食べてくれるんだろうか。飼い猫を何匹か見たからネズミくらいはいるんだろうな?もっともここのネコはお弁当の残りを待っているようだったが。
ネコとハシブトガラスは東京のどこにでもいるが、カイウサギまで日だまりでうたたねしているぞ。
精子発見のイチョウ
明治29年のことだった。平瀬作五郎はここにあるイチョウの木から採取した若い種にイチョウの精子があることを発見した。
当時、種子植物はすべて花粉管が伸びて造卵器に達して受精すると思われていただけに、この発見は世界の学会に大きな反響を起こしたとされる。のちに池野成一郎のソテツの精子発見とともに日本の近代植物学の発展に貢献した。
その功に報いたイチョウが今目の前にある。
地面に落ちているのはギンナン、凡人は拾い持ち帰るのみ。
ともかくそんなエピソードも当然と思わせる小石川植物園の歴史と風格。あまりにも閑散とした園内の雰囲気が一抹の寂しさを感じさせる。
大正12年には関東大震災の被災者の収容所となり、日本や東京の歴史を見てきた由緒ある植物園は整然と整備され、奇をてらった趣向なども取り入れず純然たる日本の形式の薬草園としてここまで保護されてきたのだ。
ツツジの園とヒカンザクラ
ツツジばかり植えてある場所がある。
今咲いているのはハヤトミツバツツジ、ゲンカイツツジ。瀬戸内で良く見かけるゲンカイ・・・はそう言えばもう咲き始める頃だ。
ハヤト・・・は初めて聞く名前だが、鹿児島県の固有種だろう、それにしても早すぎる。え?だからハヤト・・・。
コゲラでもいるのだろうか、高木の中からカカカカカ・・・と歯切れの良い音。
さらに歩くと温室があった。ただし本日は非公開の日だ。こればかりは仕方ないが、入場料を取る以上、公平に公開して欲しいものだ。
隅から隅まで見学している訳にも行かないので、とりあえずイロハモミジの並木を抜ける。
沖縄で見たヒカンザクラの大木が満開で咲いている。その場所、その場所で写真を撮ったり感慨深げに立ち尽くしている人がいるのには感心するが、それが東京の広さであり、日本の狭さでもある。ま、そんな薀蓄(うんちく)のある話をするつもりは無いが。
オプショナルツアー
そんな訳で、楽しい小石川植物園を後にした。
そこで考えたことは、この時期、花を見られる場所に行きたいものだ。
まずは靖国神社のサクラの木を見学する。これは東京気象台がサクラの開花時期を決める標準木を見たかっただけ。
そして皇居の周囲を回り、明治神宮の植物を見て、最後にNHKの見学。
これだけ遊びまわると十分くたびれて、足も何だか痛くなってくる。東京の人は良く歩くそうだが、それは確かに言える。
みんなも都会の人に負けないよう、歩くことをもっと意識してみようよ。
【編集後記】
向いのくすりやさんで切符を買うシステムは、入場の管理人の不正を防ぐ手段なのだろう。そう言えば映画館の切符販売もこの方法だ。
入場料を直接入場口で支払えば、そこに不正が発生される可能性があるわけだ。