QJYつうしん 143号  休日は山にいます

2000年3月18日

春一番の山歩き  権現山(466m) 安佐北区安佐町後山

アキレス腱を伸ばしましょう

  朝の10時になって、どこかいい山はないものか、と思案していた。花好きを誘って出かけるなら、この時期だけの春の花ユキワリイチゲを見に行きたいと思ったから。

その咲いている近くで気軽に登れる山を紹介してくれている人のホームページに権現山(ごんげんやま)があった。権現山はあちこちにあるので、ここは後山権現山とでも言うべきか。

安佐動物公園の先の「あさひが丘団地」に入り、広銀の角を右折し山すそに着けば、その登山口がある。今回はここを下山口とするが、この山では一番ゆったりと登れる道だ。

山すそに沿って1キロくらい行けば、中電の「あさひが丘寮」があり、車も置きやすく広範囲の山歩きが出来るのでオススメだ。

「マムシ注意」の看板があるのだが、この山はどこにも登山口の標識は無い。近所の人に聞いても登ったことが無いらしく、とても無愛想な山のひとつだろう。でもそのワイルドな自然さが山好きにはこたえられない。

紹介してくれた東白島町の平田さんの話では、4等三角点があるのだが探し出すのが大変だったと言う。

中電の寮からの登山口だって、赤いテープの切れ端が目に入ったから分かったくらい。

登り始めると、コウヤボウキやツバキ、ヤブコウジなどが目につく。それより急坂が足にこたえる。アキレス腱を常に伸ばしながらの山歩きは、冬の間怠けていた運動不足の体に鞭が入ったよう。
 map

自然とスピードも落ち、頭上のツツピーツツピーのシジュウカラの鳴き声が笑っているようだ。

トチノキの実やフユイチゴの葉を確認しながら一歩一歩登って行く。時には倒木を乗り越え、時にはツルリンドウやイヌガヤの葉を触りながら。

もともと棚田だったのだろう、組んだ石垣がある。人が入っていた形跡としてチャノキ、ヤツデなどがある。スギやヒノキの植林も多くなった。

突然ホーホケキョケとウグイスの声。

ヤブニッケイやシロダモ、おやこのヤマウルシの木には名札がかかっているぞ。札の裏には「後山協和会」の名前、この山の名は後山なのか?

分岐路があったのでそこのヒノキに黄色のテープを巻いておいた。おそらく調子よく下山してきてうっかり通り過ぎていきそうな気がしたから。ここは左折する。

これから日溜りの仲の山歩きだ。

あさひが丘の町並みが良く見える。大きな団地だ。ササ尾根に沿って登る。イノシシの掘削工事の跡。リュウノウギクの幼葉、ナデシコやボクチもある。

スギの林には倒木が多く、ここも他と同じく放置された植林地なのだ。

しゃがんで見ると、淡い紫色の春の花タチツボスミレだ、白いスミレはケマルバスミレ。リンボクやシャシャンボの木もある。山道にはノグルミの実。ヒメウズももう咲いているぞ。
 ケマルバスミレ

と、下ばかり見て歩いていたら巨大なスギの木が立っていた。周囲を測ってみると何と4.2メートル。ここだけ石段があって、いかにもこの山は信仰の山だった感じがする。

ここで再度聞いたウグイスの声は完璧にホーホケキョと聞こえた。

ツガも大木だ。クロキ、アセビなど名札もたくさん目に付く。その前をタテハチョウが飛んで行く。

山頂の神社

NHKTVケーブルアンテナの施設があって、左折すると神社があった。山頂だ。

日浦山神社とある。

ん?この山はどこにも山の名前が無いのだが、日浦山(ひうらやま)?それとも地区名の後山(うしろやま)?平田さんの言う権現山(ごんげんやま)?

神社には清酒の入った一升瓶も置いてあった。
 山頂の日浦山神社

おにぎり一個はちょっと少ないが、お茶菓子があってとりあえず昼食。人に用意させておいてそれは無いか。

境内はスギ、ツガなどどれも高い。

休んでいるとヒオドシチョウが頭の上に止まりに来る。飛び立つ時の音はバサバサと大きな音だ。

タテハはテリトリー意識が強く、他のチョウがやって来ると徹底的に追い払う。だから羽もボロボロになる。昆虫のくせに足が4本のケンカ蝶だ。

神社の裏にはシロダモとヤブニッケイが並んでいた。いい観察材料。

快晴の青空の下、暑いくらいだ。

4等三角点はもっと西のほうにあると言うのだが、ちょっとヤブコギまでして行く気にならない。東のピークを最初は探したのだが、ヤブツバキの赤い花を見つけられただけだった。

ちゃんと見つけた平田さん、すごい根性だ。もっとも山好きの人というのは根性が無いと遊んでられないよね。

下り道を変えてみる

先ほどの黄色いテープの分岐路で帰りは直進してみる。土曜日の午後となって、中学校の方からブラスバンドの練習の音が聞こえる。

この道はかなり広く、樹木の名札もたくさんあって、勾配もゆるやかだ。花芽をつけたシュンラン、コバノミツバツツジが多いぞ。

ひょっとして車を置いた場所から下山道がどんどん遠くなっているんじゃないか、と言う不安は必ずあるものだが、ブラスバンドの音が絶え間なく聞こえるのはひとつの安心感だ。

大きな石もある。ソヨゴ、アラカシ、ウリカエデ、ヒサカキ、ネジキやリョウブなど何でも有り。

やがて最初に説明した登山口まで下りてきた。日裏山神社と書かれた石の鳥居。「浦」ではなくて「裏」だったのか。オオイヌノフグリやホトケノザが満開状態で出迎えてくれた。

車を置いた場所まで歩かなければならないが、山すその民家の庭のウメやサンシュユ、マンサク、ロウバイなどが来訪者を歓迎してくれる。

町なかの家は引っ越してきた人だが、山すその民家はもともと地元の人の家というのが普通のパターンだ。そう言えば、ここ「あさひが丘」は宅地開発時に農協の理事連中が不正をして一時問題になったことがあったっけ。

途中ですれ違った女子中学生にこの山の名前を聞いてみた。「ごんげんやまですー。」と明るい声。この子達は卒業しても、裏山のあるこの学校を一生忘れないことだろう。

ユキワリイチゲの里

安佐動物公園の先の最初の信号を太田川方面にとると、JR可部線安芸亀山駅方面への道路になる。

安佐町宮野のユキワリイチゲはほぼ毎年、咲いている時期に訪ねている。ただし、ここの花は注意点がひとつ。西からの太陽しか当たらないので、朝一番に来ても花が閉じていること。

だから、今回のように午後からゆっくり見に来なければならない。

また、ユキワリイチゲはことの外日陰が好きな植物なのだがちょっと曇っていても花が開かない。

いったい太陽が好きなのか、嫌いなのか困った植物で、どっちにしても午後に来なければ咲いていないのだ。

と言うわけで、権現山で時間調整してやってきたわけだが、果たして、満開でその優雅な姿を見せてくれた。

葉はセリ科のミツバみたいだが色が濃い。閉じている時はじっと下を向いているので見つけることさえ難しい。開いていればこうして上を向いて大きな花を上に向けている。
 ユキワリイチゲ

やや青っぽい花びらは(キンポウゲ科なので本当はがくにあたる)日陰の方が良い写真が撮れるので撮影は難しい花のひとつだろう。

ついでに柳瀬のキャンプ場にも寄ってみた。いつもここのネコヤナギの写真を撮る。荒れた場所だが優しいネコヤナギの花穂は十分開いて微妙な色の違いを見せながら咲いていた。

もう春なんだね、と言う暖かい一日。