タイトル■ニューヨーク貧乏 〜金が尽きたら、さようなら〜
書き手 ■マイティー井上Jr

現在ニューヨーク在住のフォトグラファーによる
貧乏生活報告を含めた、ニューヨークの今を伝え
る身辺雑記です。あくまでも1個人のみの視点で
お送りするエゴイズム通信であります。「
セプテ
ンバーイレブンで激減した観光客を1人でも多く
ニューヨークへ呼び戻したい!そんなピュア−な
気持ちもありますよ」という、そんな企画です!

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第35回 
 タクシードリーム ■

俺は殆どタクシーを使わない。年に数回、
空港に行かねばならない時にしょうがなく使うぐらいである。
本当にしょうがなく使うのである。
ドライバーの質の悪さにうんざりだからである。

やれ、「遠い!」だのと文句を言う奴、
道を知らないのに「知っているゾ!」とあらぬ方向に行く奴、
果ては道がわからないのをこちらのせいにする奴などで、
「お前、プロならちゃんと走れ!」と罵声を何度飛ばした事か。

このことは私のみならず、ニューヨーカーが皆思っている事だ。

それを、ブライトサイドの視点で捉えた
「タクシードリーム」というドキュメント番組を見て、
彼等への偏見は興味へと変わっていった。

この番組は、移民としてスタートしたばかりの
新米タクシードライバーの夢と苦難の道を追ったもので、
とかく評判の悪いタクシードライバーたちの実情を視聴者に知ってもらい
彼等への理解を深め、風当たりを和らげようと、そして
タクシードリームとはニューイミグラントドリームである、
というのを伝えるのが製作意図だ。

ドライバー志願者の9割が新移民
インド、パキスタン、バングラディシュロシア、アフリカ各国からで、
アメリカの生活を始めるためライセンスの取得をめざす。
彼等のほとんどは移住して日が浅くまだ英語も未熟、土地勘なども不十分である。
中には若葉マークレベルのドライバーまでいる始末。

また、これでライセンスが取得できてしまうとはアバウトな国である。
アメリカ恐るべし!
ニューヨークのキャビー(キャブドライバー)とは、このようなドライバーなのだ。

キャビーの仕事とは12時間シフトで$200稼いだとしても
タクシーのレンタル代、ガス代やらで約$120が1日にかかり
儲けが$80で時給換算で$7(¥840)のかなり厳しい仕事。
「何が何でもお金を稼ぐゾ!」という意志がないと勤まらない。

そんな彼等の多くは、母国の家族に仕送りをしたり、
家族を呼び寄せる為の資金を作ったりと
懸命に働いている人たちがいるのだと番組は紹介している。

ギニアからのドライバーは、教師という肩書きを捨て、
より良い生活と子供の将来のため単身ニューヨークに。
そして4年ぶり家族との再開。赤ん坊だった彼の子供が
彼を覚えているかを懸念していた。

またインド人ドライバー(元弁護士)は、
故郷の村のために数年前に小学校を設立、
いまも稼ぎの一部を送っている。
また、彼は子供を医者にし、将来息子が医者として
故郷に尽くすのを夢みている。

パキスタンからのドライバー(元会計士)は
まだ見ぬ故国で産まれた子供の為にベビー用品を買い
それを携えて帰るのを心待ちにしながら働く。

どれも涙ぐましいストーリーだ。

見事な人選とリサーチ、いったい何人のキャビーに取材をして彼
等を見つけたたのだろうか?感服するばかりである。

彼等は経済難民、政治難民としてアメリカに移住し就労ビザを獲得したのだろうが
ほとんどが生活のステップアップをめざしながらも職業的にはステップダウンである。
それでも故国を離れ家族、子供の為に働くとは・・・。

しかし「子供が自立したら故郷に帰りたい」と
口を揃えたように言っていたのが印象的だった。
心はいつも故郷にあると...。
良いドキュメント番組だった。

俺の頭には誰かの為にということは微塵もなく、
ひたすら自分のスキルアップ、今そのことで貧乏しても仕方ない、
と逆ベクトルな考え。それは、帰る豊かな故郷があるから
そう思うのだろう。

改めて、このように突き付けられると
彼等への畏敬の念とともに、運命的な立場の違いを感じずにはいられない。

かつて西海岸で植木屋と言えば日本人というように
職業と国籍は今でもリンクしている。
ただそれも時代による移民の国籍の変化と共に変化しているのがアメリカだ。
きっと、彼等の子供たちが働くようになった時、
また違う国籍の移民がキャビーをしている事だろう。

街行くイエローキャブを、
「あのドライバーはどんなドラマをもっているのか?」と
想像しながら目で追うこの頃である。


(つづく)





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