「セカンド・オピニオン」の役割 

 公的保険が「不必要手術」の防止を目的に導入。民間保険も追従
 日本でも関心の高まっているセカンド・オピニオン(主治医以外の医師から治療法などについての説明を受けることおよびその仕組み)の必要性が、米国で叫ばれるようになったのは、1966年にメディケア(老人・障害者年金受給者など向け公的健康保険)とメディケイド(低所得者など向け医療補助制度)が政管保険の形で登場したのがきっかけです。
 医療費の抑制や削減の目的で「不必要手術」を防止するために導入され、特にメディケイドは「非緊急10大手術」について、その許可に当たってセカンド・オピニオンの取得を義務化したのです。
 10大手術としては、手術費が比較的高く症例数の多い以下のものが選ばれました。
 @白内障手術(レンズ挿入の有無に関係なく)、A頸動脈内膜剥離術、B胆嚢摘出術、C腹式子宮摘出術、D成人鼠径ヘルニア修復術、E冠動脈バイパス術、F経皮的冠動脈狭窄バルーン拡張術(PTCA)、G大腿骨骨頭置換手術、H経尿道前立腺切除術、I複雑末梢動脈再建術。
 それぞれの手術に対して基準的な指導綱目(大要と細目)が付記され、それに反するものはセカンド・オピニオンの有無に関係なく手術認可をしませんでした。
 最初のこの術前認可方式はメディケアにも適応され、83年から87年まで行われましたが、現在ではメディケイドのみになっています。
 メディケアで術前認可とセカンド・オピニオンが廃止された理由は、統計上、これによって手術件数は減少しなかったことが明らかになったのと、不許可率が2〜3%に過ぎず、これにかかる事務経費の方が減った医療費よりかえって大きいと分かったためです。
 一方、メディケイドが今もセカンド・オピニオンを義務づけている理由は、一般にメディケイドによってカバーされている患者の医療知識が低く、セカンド・オピニオンなしだと、不必要あるいは有害と思われる手術を安易に認める可能性が高いと見られているためです。

管理医療を行う集団民間保険も積極的に採用
 1987年ころからマネジド・ケアと呼ばれる管理医療を行う集団民間保険、ことにHMO(健康維持組)が激増し、現在ではPPO(優先供給者組織)とともに、国民の半数近い1億2000万人が加入していることも、セカンド・オピニオンが広がる背景にあります。
 マネジド・ケアの大半は、医療費の抑制・削減のために不必要手術のチェックや高額手術の制限、さらに濃厚治療の防止を掲げ、実際、医療指導綱領を作成し、その基準に従って治療を行うよう医師に強制しています。
 また、手術を含む治療手技を行う前に、自分たちの組織内と外部の両方の医師に依頼してセカンド・オピニオンを取るのを原則としています。
 これによって不必要手術と判断されれば、患者が希望するか否かにかかわらず、手術の認可を拒否するのです。
 新術式の導入に伴って様々な判断の問題もあり、また、「職務上競争・競合する相手」であれば、医師によっては「手術反対」のセカンド・オピニオンを出すことがあるからです。
 また、FDA(連邦食品医薬品管理局)がまだ認可していない医療機器を使用する場合も、メディケアやHMOなど保険者は「実験的・試験的手術」との理由で許可しないケースがあります。
 特に高額手術となる乳がん末期患者や白血病患者に対する高濃度化学療法および骨髄移植手術の合併使用も「試験的」と拒否したりします。
 アルコール依存による肝硬変患者に対する肝移植も、患者自信の無責任さによって起きたものであり、また効果が認定されていないとの理由で許可しなかったりします。
 当然のことながら、セカンド・オピニオンでも、これらの症例には「反対」を出すのが、むしろ原則になってきています。
 このため、これらの患者たちがHMOを相手取って訴訟を起こしたり、自費で他の医師の治療を受けるといったケースが多くなっています。
 この訴訟について補足しますと、HMOの契約条項の中に「HMOは雇用主保険法に基づいて過誤医療訴訟の対象にならない」との一文があるため、HMOを相手にした訴訟に勝つのは難しいのです。
 そこで政府は改正法を作って、関係条項の削除あるいは改正に乗り出しています。その改正と患者の権利擁護のための法律が、連邦会議の上下両院で討議されていますが、なかなか決まりません。

問題も発生し、「第3意見」求める患者も
 以上、米国でセカンド・オピニオンが医療費の削減に利用されている現状をお伝えしましたが、次にセカンド・オピニオンの歴史的な背景を説明しましょう。
 1970年代になって患者の権利が法的にも確立されると、それに伴って患者の医学・医療知識も深くなってきました。
 自分の病気や新薬、手術などの新手技などに関する知識・情報が、マスコミだけでなくインターネットを使ってますます容易に入手できるようになり、そうしたなか、患者は医師の診断や治療法に必ずしも納得しないことが多くなってきたのです。
 また医師も、医療過誤による訴訟を起こされるのを恐れて断定的に治療法や診断法を患者に告げるよりも、むしろインフォームド・コンセント(知らされた上での同意)の形を取って、いくつかの診断法や治療法の利点や欠点、また医療費負担面から見た利点と欠点について説明することになりました。
 こうした場合、医師がマネジド・ケアに属していると事情が複雑になります。ことにHMOなどがその契約している医師たちに対して、現在では違法と判断されていますが、一時期、箝口令(gag order)を課し、医師にHMOとの契約内容についての発言を禁じていたので、医師が一番適していると考える診断・治療法であっても、かかる費用が高い場合や試験的・実験的と判断されると患者に勧められないのです。
 このため、加入している保険によっては費用の少ない代替医療を認めて、それ推奨するケースもあります。
 また患者も、セカンド・オピニオンを取る義務を課され、自分の希望する治療を受けられないなどの問題も起きています。
 そもそもセカンド・オピニオンは、患者が自己判断するための参考にする第三者的立場の医師による意見であって、その採否は本来、患者の自由であるべきなのですが。
 またセカンド・オピニオンを行う医師は自分が正しいと思う診断・治療法を患者に勧めるのみで、第一の医師(主治医)に対する批判や中傷があってはならないと考えます。それに、第一の医師が治療を拒否した場合以外には「私の方が正しいから、こちらで診断・治療を受けた方がよい」などと患者の誘導・獲得を図ることは、当然のことながら医の倫理に反します。
 しかし、現状では心配な事態・事件が起きています。そのため、結果的に患者が手術を拒否されて死亡するといった不幸なケースもあるのです。
 第一の医師が患者の診断や治療を拒否したために、患者が絶望状態に陥ってセカンド・オピニオンを求めるといった場合で、例えば「エホバの証人」が輸血を拒否したときなどです。「手術は可能だが、輸血を必要とするので手術は出来ないといわれた」と訴えて、無血手術を行っている私の所に、これまで実に数千人もの患者がセカンド・オピニオンと治療を求めてきたのです。中には保険に支払いを拒否された患者を無料で手術したこともたくさんあります。
 最後になりましたが、セカンド・オピニオンが必ずしも正しいとは限らないという点を指摘しておきたいと思います。むしろ、誤っている場合もあり、患者が「サード・オピニオン」を求めることさえあります。
 ことに日進月歩の現代医療においては、そうした問題は日常茶飯事で起きています。また、代替医療が流行したことも重なって、患者が「正規の医療」をあきらめるなど、セカンド・オピニオンをめぐる状況は一段と複雑化・困難化してきています。

目次に戻る