医療保険や医師と上手に“付き合う”ために 

 日本は国民皆保険制度が行きわたっていて「いつでも、どこでも、だれでも」自分で自由に医師や病院を選べます。しかも、比較的安い料金で病気の治療を受けられる安心度の高い国です。
 この点に関して米国医療を見ると、保険を持たない人(無保険者)が国民の16%もいる上に、国民の半数が加入しているマネジド・ケアという民間集団保険も老人・障害者・貧困層などをカバーするメディケア、メディケイドという公的医療保険も、医師や医療機関を自由に選ぶことができない仕組みになっています。例えば、マネジド・ケアは、治療の方法などについて患者や医師ではなく、保険会社が一方的に決めたり管理する、いわゆる管理・統制・制限医療になっているのです。
 それに比べると日本は、もちろん、問題や課題は少なくないものの、患者・国民も医師をはじめとする医療人も「幸せ」な国だと思います。つまり、初めにふれたように、日本では自分の望む治療をしてもらうための選択の幅が大きい、多いのです。この医療のフリーアクセス性は、日本の医療が誇れる財産だと思います。
 しかし、ここに来て、前年の診療報酬引き下げに次いで、2003年4月からの保険料3割自己負担の問題からもお分かりのように、国は財源難の保険財政を何とかしようと躍起になっています。
 日本の医療の良さを生かしながら、より良い医療を作り、それが受けられるようにしていくためには、患者・国民がこうした制度やお金の問題にも無関心ではいられないと思います。そうしたことを踏まえながら、保険や医師・医療機関と上手に付き合ってほしいのです。医療は、あくまで“協働作業”でつくっていくものだからです。
 その点で参考にしていただけそうなポイントを簡単にまとめてみました。
 まず、病院・診療所を選ぶ時は、
・そこが(そこの院長・医師などが)インフォームド・コンセント(知らされた上での同意)など、
 治療・入院・退院計画など患者への情報提供(インターネットやホームページといったものも含
 めて)を十分に行い、また、患者の気持ちや意見によく耳を傾けたくれるか
・患者のQOL(生活の質)の向上に配慮しているか
・良い環境の中で治療が受けられるか
・患者の苦痛をやわらげ、またできるだけ早く社会復帰できるよう、手術なども侵襲の少ない(肉
 体的精神的苦痛や負担が少ない)方法を積極的に取り入れているか――などです。
 そのほか、患者を必要以上に、また無神経なくらい長く待たせたり、患者を物品のように扱うようなところとは、あまり付き合わないほうがいいでしょう。
 それと、これから特に大事になってくる点ですが、患者・国民の側が受け身の姿勢ではいけないということです。患者・国民から積極的に医療について意見を述べたり、質問していくことが大切です。もし、診断や治療について少しでも疑問があれば、率直に尋ねてほしいですし、納得いかない答えや対応であれば、他の医師や医療機関にセカンド・オピニオンを求めることも必要です。
 日本の医療は、医師の個人的な資質・性格といった問題だけでなく、長年の歴史や制度的な問題も重なって、「医師任せ」の風潮・傾向が根強く残っています。
 しかし、医療は料理に例えれば、会席などの「お任せ料理」よりも、自分で選ぶ「一品料理」的な要素が強いように思うのです。自分が良いと思う店や料理人、料理(病院・医師・治療法など)を選ぶことができますし、それが基本ではないでしょうか。
 自分に合った料理を食べるために、その料理や料理人、店を見極める目を養う必要があるのと同じように、自分に合った良い医療を受けるためには、患者・国民が病気とその診断・治療法についてはもちろん、医療制度などについて、ある程度の的確な知識・情報を身につける必要がありますし、そのために勉強しなければなりません。疑問や知りたいことがあれば、自分や家族の体のことを第一に考え、どんどん質問し、意見が言えるようになることが重要です。
 なぜ、患者・国民にそうした姿勢が大切なのかといいますと、日進月歩で技術革新が進み、医療の専門分野も大きく広がると同時に日々深まっている今日、たとえ医師でも自分の専門領域を離れると知らないことも少なくないからです。
 そんな時、多くの医師は専門家を紹介してくれるのですが、患者もただ紹介されるのを待っているだけではいけません。自分でも、獲得した、知識・情報をもとに検討を加えて選んでいく作業をしてほしいと思います。評判だけでなく、データなどから実績をチェックすることも大事なポイントです。
 こうした作業を進めるにはいろいろはやり方があります。医師だけでなくベテランの看護師に相談したり、サラリーマンなら自分の入っている健保組合に聞いてみるといった方法もあるでしょう。
 とにかく、一番大事なのは、自分や家族のために医師と医療機関選びを間違わないことなのです。

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