情報システム学会(ISSJ)メールマガジン連載 「オブジェクト指向と哲学」

情報システム学会会員向けメールマガジンに寄稿中の連載記事は発行日から3カ月経過したものから全文一般公開されます。目次
連載「オブジェクト指向と哲学」合冊
第1回〜第6回第7回〜第12回第13回〜第18回第19回〜第24回


2011.1.25
新連載 「オブジェクト指向と哲学:第1回」
「プロローグ」

 巷の技術者向け書籍を読んで何か物足りない、薄っぺらな感じがするものが多い。哲学が感じ取れない。単なるノウハウもの、こうすればできるという実践書ならそれで用が足りる。それで良しとしてしまい何の疑問も問題意識も生じない。一方、海外の工学書からは読んでいて単なる技術以上の奥深さ、哲学が感じられる。翻訳に値する名著のみが日本に持ち込まれていることもあろう。これは表面的な技術力の差だけではない。名著には技術以前に哲学があり、思想がある。我々が学びとるのは単に実践的なテクニックのみで良いのだろうか?日本の工学書がどれだけ海外に翻訳されているのだろうか?これは単純に技術の問題だけではないのではないだろうか。(...続きを読む)

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2011.2.25
新連載 「オブジェクト指向と哲学:第2回」
「プラトン - イデア論」

 オブジェクト指向を哲学として考えるようになったきっかけは、あのヨースタイン・ゴルデル著『ソフィーの世界』です。本書を読まれた方は、オブジェクト指向の知識があれば、ほぼ全員「プラトンのイデア論とオブジェクト指向の考え方はとても似ている」という感想をいだかれた筈です。(...続きを読む)

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2011.3.25
連載 「オブジェクト指向と哲学:第3回」
「アリストテレス - 形相と質料」

 哲学書は難解な専門用語で一般読者が立ち入れない世界を構築しています。
それでも今回のテーマ「形相(eidos)」と「質料(hyle)」という日常聞きなれない用語は、アリストテレスの考え方を理解するためにどうしても必要なキーワードです。今回はアリストテレスの存在論−ものとは何か、を前回に引き続きソフィーの世界を参照しながら考えて見たいと思います。(...続きを読む)

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2011.4.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第4回」
「分類と分解 - 汎化と集約」

 人は物事を認識するとき、頭の中で「分類と分解」というふたつのロジックをほとんど無意識に駆使しているようです。自分の知識体系をこのふたつのロジックで整理し、自分辞書を日々膨らましながら構築してゆきます。
 分類のルーツはアリストテレスに見られ、分解のルーツはデモクリトスの原子論にたどることができます。今回もソフィーの世界を引用しつつ、このふたつをオブジェクト指向の視点で考えて見たいと思います。(...続きを読む)

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20115.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第5回」
「徳とは何か - 分類と分解で考える」

 マイケル・サンデル教授のハーバード大学白熱教室は、続々と出版されてきた著書やTV出演でおなじみになってきました。「正義とは何か」が基本テーマになっていますが、このようなブームが今突然湧き上がってきたのはなぜでしょうか。皆が潜在的に疑問に思っていたことをわかりやすい日常の言葉で、対話形式で議論を進めた。それは正にソクラテスの手法です。
 これは古来存在論・認識論と並ぶ哲学の主要テーマのひとつです。プラトンの著作でソクラテスは何度も「徳とは何か」を対話のテーマとしてとりあげています。また、アリストテレスは「善」とは何か、最高善たる幸福とは何かを探究しています。徳や善と正義はどのような関係があるのでしょうか?
今回はオブジェクト指向とも密接な関係のある「分類と分解」のケーススタディとして、ソクラテスの「徳とは何か」をテーマとした対話を題材にして、UMLでモデリングしながら考えてみたいと思います。 (...続きを読む)

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2011.6.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第6回」
「徳とは何か - 分類と分解で考える(その2)」

 前回はプラトンのプロタゴラスを引用し「徳とは何か?」をUMLでモデリングしながら考えてみました。
 「分類と分解」は概念を整理する強力な技法です。オブジェクト指向にも取り入れられていて、UMLで可視化すると明確になります。UMLでは分類は汎化関係、分解は集約またはコンポジションで表します。
 今回は、前半でプロタゴラスからの引用でモデリングを行った前回の続きを述べ、後半ではパイドロスを引用し分解について考えて見たいと思います。(...続きを読む)

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2011.7.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第7回」
「知識とは何か - 2つの知識」

 前回まで2回に渡って「徳とは何か?」についてプラトンのプロタゴラスとパイドロスを引用しつつ「分類と分解」の視点からUMLでモデリングしながら考えてみました。
 今回は「知識とは何か?」というテーマで、個物と普遍の存在と認識についてUMLでモデリングしながら考えてみたいと思います。知識には個物の知識と普遍の知識があります。(...続きを読む)

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2011.8.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第8回」
「知識とは何か(2) - 「である」を考える」

 前回は「知識とは何か?」というテーマで、アリストテレスをヒントにして知識を第1実体(個物)と第2実体(普遍)に分類し、その構造をUMLでモデリングしながら考えてみました。
 今回は、前回冒頭に挙げた「・・・がある」「・・・である」の議論をもう一歩進めて見たいと思います。 (...続きを読む)

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2011.9.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第9回」
「知識とは何か(3) - 想起説」

 前回は「知識とは何か(2)」と題して「AはBである」を、Aが第1実体か第2実体かで認識が異なることをUMLでモデリングしながら考えました。(中略)
 今回は、プラトンの想起説について考えて見たいと思います。想起説は場面を変えて何度も出てきます。ソクラテスは輪廻転生を信じ、自身が毒杯で死ぬときも少しも恐れず、これで自分の魂は肉体の監獄から解放され、すばらしいイデア界(天上界)にやっともどれるのだと信じ、何も悲しむことはないのだとしました。また、この世の人生で学んだ知識の他にイデア界で過去に学んできた知識は魂が覚えており、人はそれを何かのきっかけで想起することができるのだと考えました。(...続きを読む)

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2011.10.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第10回」
「知識とは何か(4) - 産婆術」

 前回はプラトンの「メノン」をテキストにして、想起説をテーマに知識とは何かを考えました。知識にはこの世の人生経験で獲得する後天的なもの以外に、輪廻転生を通じて前世や霊天上界(イデア界)で獲得した先天的なものがある。後者の知識はきっかけを与えれば想い起こすことができる。
 ではどうやって想起するのか、それを助けるのが産婆術です。今回のテキストはプラトン「テアイテトス−あるいは知識について」です。ここでは知識とは何かというソクラテスの問いかけに、テアイテトスは産婆術の手助けにより3つの答えを生み出します。(...続きを読む)

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2011.11.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第11回」
「知識とは何か(5) - 知識は感覚ではない」

 前回に引き続き、プラトン「テアイテトス ? あるいは知識について」をテキストに、知識とは何かというソクラテスの問いかけにテアイテトスが産婆術により生み出した3つの答えの第1「知識は感覚」について考えます。
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2012.1.1
連載「オブジェクト指向と哲学:第12回」
「知識とは何か(6) - 知覚するものとされるもの」

 前回に引き続き、今回もプラトン「テアイテトス ? あるいは知識について」をテキストに、「知識は感覚」を吟味する長い議論を追ってみたいと思います。テキストは前回より少し戻りますが、プロタゴラスの相対性のテシスとヘラクレイトスの流転性のテシスをまず認める立場で進行します。
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2012.1.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第13回」
「知識とは何か(7) - 暗黙知」

 前回に引き続き、今回もプラトン「テアイテトス − あるいは知識について」を考えてみたいと思います。
 テアイテトスは「知識とは何か」という問いかけに順番に3つの説明を試みます。
 (1)感覚 perception
 (2)真なる思いなし true belief
 (3)真なる思いなしに言論が加わったもの true belief with the addition of a rational account
 これらは結局すべて棄却されて本書は終了してしまいます。
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2012.2.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第14回」
「学習パターンと SECI モデル」

 前回は、知識には表面的な形式知とその奥にある暗黙知があり、ソクラテスが追求している知識とはどうやら暗黙知らしいというお話でした。
 形式知は言葉で表現できるが暗黙知は言葉で表現できない。だから知らないとはならない。
  「我々は語ることができるより多くのことを知ることができる」
 ではどうやって暗黙知を確認できるのか?それは実践できるかどうかです。
実際に自転車に乗れるかどうかということです。
 大工は大工の知識を、医者は医者の知識を、靴職人は靴職人の知識を持っ
ているからそれぞれの職業が務まる。それぞれの知識とは「形式知+暗黙知」です。形式知は言葉で伝達できるが暗黙知は自分で体を使って時間をかけて習得するものです。
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2012.3.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第15回」
「パターン言語 - 無名の質」

 前回は、パターン言語の事例として「SFC学習パターン」を取り上げました。特にわざわざパターン言語を意識することなく、学習法のノウハウ集として利用しても良い内容です。筆者はたまたまいくつかのパターンが新人研修のプロセスをカバーしていることに気付きました。さらに注意深く読んでみると、それらはSECIモデルのサイクルにも重なることを発見しました。
(中略)
 今回は、建築家クリストファ・アレグザンダー(以下C.A.)が提唱したパ
ターン言語のキーワードである無名の質を考えてみたいと思います。
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2012.4.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第16回」
「パターン言語 - ソフトウェアへの浸透」

 前回は、パターン言語のキーワードである無名の質について考えました。「パターン言語とは何か」の説明は後にして、外堀から埋めてゆきます。
 パターン言語は本来の建築の世界よりもむしろソフトウェアの世界に取り込まれてきています。その流れは大きくふたつあります。第1はデザイン・パターンから始まった一連のソフトウェア・パターンの一大潮流です。第2は一連のオブジェクト指向開発プロセスへの影響です。統一プロセスRUPや、その対極として生まれたXPから始まったアジャイル開発ブームにパターン言語の考え方がとり込まれてきました。 
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2012.5.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第17回」
「パターン言語 - 育てるということ」

 前回は、パターン言語のソフトウェアへの浸透をテーマとし、2大潮流があ
るとしました。
 第1はデザイン・パターンから始まった一連のソフトウェア・パターンのムーブメント、第2は一連のオブジェクト指向開発プロセスへの影響です。統一プロセスRUPや、その対極として生まれたXPから始まったアジャイル開発ブームにパターン言語の考え方がとり込まれてきました。
 知識の観点から捉えるなら、パターン言語とは知識の形式化の技術です。組織および個人の経験や試行錯誤を通して蓄積されてきた暗黙知を新たな形式知として創出する技術です。
 第1のムーブメントは設計知識の再利用技術として取り込み、第2のムーブメントは開発プロセスの知識表現技術として取り込みました。
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2012.6.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第18回」
「パターン言語 - 成長する全体と癒し」

 前回は「パターン言語 - 育てるということ」をタイトルに、アレグザンダーが目指す価値を作りだすプロセスについて、パターン言語3部作の「オレゴン大学の実験」をテキストに、オブジェクト指向開発プロセスと重ね合わせて考えました。
 参加の原理と漸進的成長の原理は、オブジェクト指向開発プロセスの雛型として完成された統一プロセス(RUP)やアジャイル開発にも入っています。そこで実際に生活する住民やシステムの利用者を含んだ場のクオリティを作り上げるための基本原理は同じです。
 今回のテキストは「まちづくりの新しい理論」です。監修者難波和彦氏による「アンビバレントなオマージュ」と題された中身の濃いまえがきにはアレグザンダーの思想が凝縮されています。
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2012.7.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第19回」
「パターン言語 - ハイエクの視点(設計主義批判)」

 前回は「パターン言語 - 成長する全体と癒し」をタイトルに、クリスト
ファ・アレグザンダー(C.A.)の「まちづくりの新しい理論」をテキストに、
オブジェクト指向開発プロセスと重ね合わせて考えました。リファクタリン
グはシステム成長のための癒しの技術と言えます。
 さて今回はハイエク(Friedrich August von Hayek)の視点からパターン
言語を考えて見たいと思います。C.A.の思想はハイエクと重なっている部分
がかなりあります。ハイエクは経済や政治など人間社会を対象としているの
で分野は異なりますが、どちらも人間個人の個性と自由意思を重視している
点は共通しています。
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2012.8.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第20回」
「パターン言語 - インターネットを考える」

 前回は「パターン言語 - ハイエクの視点(設計主義批判)」と題してクリストファ・アレグザンダー(C.A.)とハイエク(Friedrich August von Hayek)の思想の共通点について考えました。
 社会や都市など、多様な価値観を持つ人々がそこで生活を営む大きな共同体の全体の成長を、人は設計どおりにコントロールできない。しかし、住民がその共同体を必要とするならそこに自生的秩序というものが生まれてくる。ハイエクはそこに経験に基づく慣習法を見出し、C.A.はクオリティを生み出すパターンを見出す。
 今回はインターネットを題材にしてC.A.とハイエクの視点で考えてみたいと思います。インターネットは誰かが全体設計し、管理しているものではなく、オープンな技術を個人や組織が活用して自然に成長してきたものです。ここにC.A.とハイエクの思想に共通する事例を見ることができそうです。
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2012.9.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第21回」
「パターン言語 - オブジェクト指向の設計主義と自由主義」

 前回はクリストファ・アレグザンダー(以下C.A.)とハイエク(Friedrich August von Hayek)に共通する設計主義批判の視点から、インターネットの
「成長する全体」を考えました。(中略)
 今回はオブジェクト指向という考え方を、設計主義と自由主義という視点で考えてみたいと思います。(...続きを読む)

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2012.10.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第22回」
「場と力」

 前回は「オブジェクト指向の設計主義と自由主義」と題して自由主義的オ
ブジェクト指向の限界のようなものを考えて見ました。今回はそのオブジェ
クト指向の限界を、ちょっと違った視点で考えて見たいと思います。
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2012.11.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第23回」
「遠隔力」

 前回は「場と力」と題して、オブジェクト指向の考え方に欠けている「オ
ブジェクトの運動やオブジェクトに働く力」や、さらには「自由意志や成長
のようなもの」を表現できるモデルはどのようなモデルであろうか、につい
て少し考えてみました。
 今回はそれに関連して、山本義隆著「磁力と重力の発見」を参考に、遠隔
力-離れているものの間に働く力について考えてみたいと思います。
(...続きを読む)

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2013.1.1
連載「オブジェクト指向と哲学:第24回」
「引力と斥力」

 前回は、山本義隆著「磁力と重力の発見」を参考に、遠隔力 - 離れている
ものの間に働く力について考えました。今回も引き続き、遠隔力の「引力と
斥力」について3つのケース、(1)「ものともの」、(2)「人ともの」、(3)
「人と人」、それぞれの間に働く力について考えてみたいと思います。同著
はタイトルのとおり物理的な力を対象としており、当然ながら人の心に働く
力や行動は対象範囲外です。本連載では(1)を人に適用したらどうなるか、イ
メージを膨らませて(2)や(3)を自由な発想で考えてみたいと思います。
(...続きを読む)

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2013.1.1
連載「オブジェクト指向と哲学:第25回」
「流出システムと波動システム」

 心に働く力を考えています。山本義隆著「磁力と重力の発見」は、重力と
いう身近な力が発見されるまで人類はいかに長い年月をかけてきたのかとい
う歴史を、実にじつに多数の文献を元に詳細にまとめられており著者の熱意
に圧倒されます。磁石という不思議な石や、琥珀が籾殻を引き寄せる現象は
古代ギリシャ時代から知られていましたが、重力というものはあまりにあた
りまえすぎて長い間興味の対象にすらならならなかった。りんごが木から落
ちても誰も何も感じない... (...続きを読む)

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2013.2.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第26回」
「流出システムと波動システム(2)」

 「流出説と物活論」はものとものの間に作用する力の現象を説明する古典的な2つの考え方です。これをヒントに、前回は人と人の間に作用する力を「流出システムと波動システム」という2つのシステムとして考えてみました。今回は波動システムをもう少し具体的に考えてみます。(...続きを読む)

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2013.3.25
連載「オブジェクト指向と哲学:第27回」
「流出システムと波動システム(3)」

 人はコミュニケーションのために「流出システムと波動システム」と筆者
が仮に名付けた2つのシステムを持っているという仮説で考えています。前
回は、モーツァルトの心に奔流のように現れる一幅の絵とソクラテスのダイ
モンの声に注目しました。それらは眼で見る絵でもなければ耳で聞く声でも
なく、直接心に捉えられます。つまり流出システムではなく波動システムで
受信されるのだと考えました。(...続きを読む)

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