その七 平井之景

平井は、川の氾濫がもたらした肥沃土が適していて、亀戸大根の産地として有名でした。

旧中川は、江戸時代、江戸と下総・常陸・下野を結ぶ重要な水路でした。

田園地帯で千葉街道に近く、安藤広重が江戸名所百景で描いた「亀戸梅屋敷」があった所です。

昔から人の往来が多く、明治になって鉄道が敷かれると、平井駅通りを中心に商屋が密集するようになりました。

しかし、一歩裏手に回ると、中川の水運を利用した大小の工場がひしめいて、農家はなくなってしまいました。

ここは他の地域より地盤が低いので、大雨が降るとすぐに浸水騒ぎになる土地でした。

都市整備が遅れ、曲がりくねった田んぼ道をそのまま引き継いだ狭い路地に、家々が建ち並ぶ雑然とした町でした。

近年、JR平井駅周辺の区画整備が行われ、工場の跡地だった所に、公園や住宅ができて環境が一変しました。

これは、木下川排水機場が整備されて、水害の心配が少なくなったからです。

平井聖天燈明寺や安養寺の鐘楼、天祖神社の木彫りなど、これまでに何度も水害に見舞われましたが、幸いに現在も残り、素晴らしい文化遺産として見ることができます。

旧中川沿いの立花には、おもむきのある民家も見られ、雑然とした区画の中にも歴史の足跡を見ることができます。