その八 新小岩之景

ここが田園地帯であったころ、稲刈りが済むと、あちこちの鎮守の森から、♪ピイーヒョロ ピーヒョロ テンツクテンツク…と、「葛西囃子」の音色が軽快なリズムではやしたてられ、豊作を祝って夜神楽が演じられました。神酒所では農家の人々が作柄の自慢話に花を咲かせ、大山詣りの相談が持ち上がります。

夜がふけて迎えにきた幼子の堤灯の灯りをたよりに、たんぼ道を千鳥足で帰っていきます。

こんな光景が毎年繰り返されてきました。もちろん今では見られません。

しかし葛西囃子の音色はしっかり残っています。

ベットタウンとして都市化が進められて、荒川堤の上につくられた高速道路から眺めると、寺社を囲む深い森と、元農家の屋敷森が所々に見られます。公園の森も際立って見えます。

このあたりは高層建築が少なく、所々に目立つのは、総合文化センターや公共建物です。

町を歩くと、辻地蔵や庚申塔、馬頭観音の石塔をいくつも見かけます。

田の神様のユーモラスな姿ににも出会います。

この地域に確りと根付いてきた歴史の厚みと、築き上げてきた生活文化の誇りが感じられます。

この文化遺産を受け継ぐ、この地域に耳を傾けると、「第九」の合唱が聞こえ、新しいふるさと祭りの鼓笛が聞こえてきます。