その十一 鐘ヶ淵之景

隅田川の左岸に衝建ち並ぶ白髭地区の高層住宅団地は、旧鐘紡の工場跡地です。右岸の汐入区の超高層住宅団地は、旧国鉄貨物操作場の跡地を再開発してできました。白髭地区は、大正12(1923)9月1日の「関東大震災」と、昭和20(1945)3月10日の「東京大空襲」の災禍の教訓に学び建設されました。団地の屋上には、防火用の貯水タンクを備え、火災時の火勢を防ぐようになっています。交通の機能は、高速道路が頭上を走り、鉄道は、東武鉄道、京成電鉄の超モダンな特急が走り抜けます。また、東武線・堀切駅前には、荒川と隅田川を結ぶ、舟運の重要なポイントのひとつである隅田水門があります。この水門は、大型の船は通過することはできませんが、近年、人気の屋形船やボートなどの小型船が利用します。町を歩くと、庶民的なおかず横町では、威勢のよい掛け声が飛びかい、チンドン屋が練り歩いたりしてにぎやかです。ここで暮らす人たちの連帯意識は非常に強く、伝統行事を守る心意気が高い所です。高速道路と防壁のような大団地に挟まれた隅田川神社の祭礼、歴史や伝説のある、「梅若物語」「能・隅田川」ゆかりの梅若塚がある木母寺、隅田川七福神めぐりの多門寺など、今昔の対比が鮮やかです。