その十五 千住桜木之景

昭和の中ごろまで、このあたりのシンボルのようにして立っていた、通称「お化

け煙突」というのがありました。これは、東京電力火力発電所の四本からなる、真っ黒な煙突でした。当時、周辺に高い建物はありませんでしたから、とくに目立った存在でした。高さ83,5メートルで、天にも届きそうに高くて巨大だったので、かなり遠方からも見ることができました。なぜ「お化け煙突」かというと、歩きながら見る角度によって、4本に見えたり3本に見えたり、2本しか見えなかったりして、煙突が化けて見えるからです。仕掛けのタネは、煙突が菱形に並んで立っているためです。このお化け煙突が象徴するように、このあたりは、隅田川を利用して工場がたくさんできました。建ち並ぶ工場の煙突から吐き出される楳煙で大気がかすみ、スモッグ状態になって喘息の原因にもなりました。やがて公害条例ができて、強力な規制が義務づけられると工場が次々と移転して行きました。その跡地には、公園がつくられ、付近に住む人たちの憩いの場となりました。公営の交通網は、あまり整っていませんでしたが、「チンチン電車」の愛称で親しまれている、都内唯一の路面電車、都電荒川線が重要な庶民の足として懐かしさを乗せて走っています。