その十六 本木之景

「南無大師遍照金剛」…編み笠を被り、白装束に脚絆わらじ姿の大師講中の人が、曲がりくねった商店が並ぶ元木新道を、杖を突きながら歩いていきます。行く先は西新井大師の総持寺という名刹です。一昔前までは、田畑の中を突き抜けているこの道を、白装束に身を固めた講中の人たちが、のぼり旗をはためかせなら歩いて行く、たいへん牧歌的な光景を見ることができました。当時の元木村の集落には、草団子などを商う茶店や、お休み所があって、一行の旅の疲れを癒していました。今、この元木新道を歩いてみると、かつては茶店であったと思われる店舗が、今風に模様変えして残っています。時代が変わり、環状七号線が開通して、尾竹橋通りが整備され、元木新道が舗装されて路線バスが運行されるようになると、昔の牧歌的風景はなくなりました。近年、スーパーができて、門前町的な様相は薄れてきています。しかし、古くからの寺社の多いこのあたりは、信仰と暮らしが深く結びついてきました。元木氷川神社、元木北野神社、中曽根神社、関原八幡の4社合同の「元木地区まつり」など、祭礼や縁日になると、一昔前の活気を取り戻します。新興の連合渡御の時には、道路が一時閉鎖されるほどのにぎわいのある土地柄です。