その十七 小台之景
昔は、小台付近の隅田川で白魚がとれたといいますから、かなりきれいな川だったことがわかります。尾久の原には、さくら草が自生していて、江戸市中の人々が遠路、観賞に訪れたということです。蛇行している隅田川の川筋を見ると、荒川ができる前は、大雨が降るたびに、浸水の被害を受けていたことがうかがわれます。尾久一帯は、蓮田がたくさんあるような所で、湿気の多い所でした。小台橋通りのあたりには、かなり古くから集落がありましたが、周辺の都市化とともに、ここでも次第に隅田川を利用した工場や倉庫が建ち並んで栄えていました。こうした発展は、水害を防ぐためにできた荒川放水路の開削の結果、可能になったといっていいでしょう。都内唯一の路面電車、都電荒川線の沿線には、軒を重ねるようにして住宅が建ち並び、道幅は狭いのですがにぎやかな商店街を形成しています。ここの商店街は、昔からのお寺の門前町ではなく、朝市と四季折々の大売り出しが行われたところから発展してきたようです。田畑を埋め立てて住みつき、下町気質を根っ子とした町です。商店街から離れたところに、尾久八幡神社がありますが、夏祭りには
30基もの神輿が出て、伝統的な町の姿と、その心意気を見せてくれます。