その十九 新田之景

隅田川を遊覧する水上バスに乗って新田橋をくぐり抜けると、眼前に高層団地群がおおいかぶさるように建ち並んでいます。そして荒川堤の向こう側には、現代を象徴するかのように、中央環状線のダイナミックな高速道路橋が見えます。荒川河川敷の鮮やかな緑と、青空のキラキラ反射する水の色を背景にした眺めは素晴らしい光景です。このあたりは舟運の便利な隅田川沿いに、大小の工場が並ぶ大工場地帯でした。公害が社会問題となり、ここでも工場の撤退が迫られました。その広大な跡地に、豊島5丁目団地ができました。それと同時に、民間のマンションが建ち、学校などの公共施設がつくられ、今は住宅都市になっています。豊島橋から西へ、北本通りに向かって行くと、農家風のどっしりした家が数件目につきます。そのあたりには現在、まったく田畑を見ることはできませんが、近年まで農業が営まれていた風情が残っています。その近くには、「庚申通り商店街」があります。庚申信仰は、農村特有のもので、この地域に、かつてあった農耕の民俗信仰があったことを伝えています。しかし、大きな寺社がなかったことや、急速に地域の変化が進んだこともあって、この地域の伝統的な民族行事や祭礼はあまり見られません。