<2001.2.19> 今年になって初めて買ったハードカバーの単行本。 初めて文章に触れる作者。 本当は、違う本を買うつもりでいったのに、傍らに整然と積み上げられていた装丁の赤い色の鮮やかさとそのタイトルに思わず手をのばしてしまう。 サヨナライツカ・・・ 人間は死ぬとき、愛されたことを思い出すヒトと 愛したことを思い出すヒトとにわかれる 私はきっと愛したことを思い出す そう書かれた帯に取り付かれたみたいにページを開くと、その言葉を包むようにした詩が綴られている。
永遠の不幸もない いつかサヨナラがやってきて、 いつかコンニチワがやってくる 人間は死ぬとき、愛されたことを思い出すヒトと 愛したことを思い出すヒトとにわかれる 私はきっと愛したことを思い出す ちょうどぼんやりと「さようなら」みたいなことを考えていたような気がする。 新宿でしこたま食べた餃子がびっしりつまったお腹の時に、そんなこと考えていた自分はとても滑稽な表情をして歩いていたと思う。 ほんの短い時間を過ごしただけでも、一生を支配してしまうこともあるのだ、と小説は最後まで叫ぶ。 堅実で、自分が持った目標通りに出生街道をひたすらに進む男性と、短いひとときと忘れられない思いを自分の中に封じ込めてひたすら生きて行く女性。 人知れず何かの陰に身を置いてひとりで一生送るしかできず、やがて癌という病におかされ亡くなっていった真中沓子さんという女性の輪郭がくっきり。30年たっても、鮮やかに浮かび上がる短かかった二人の時間。 片方には後悔が時を重ねれば重ねるほど過去が鮮やかになっていき、一方には「待つ」ことで鮮やかになっていく。--- そんな小説。 おかしいなぁ。過ぎてゆく時間は褪せていくはずなのに。 今、もう一度読み返しはじめている。 ふと振り返ると、思ったほど時間って褪せてない。悔やめば悔やむほど、思いきり泣き明かした時間のほうが今のこの時より鮮やかなのは何故? すっぱり忘れたいことと決め、飛び出そうとしている自分がここにいる。過去を抱いてばかりで生きていけるのは、たぶん小説のヒロインだけ。 時はどんどん流れているのだから。 ----------------------- 私の好きな曲。♪夕立のあとで。 この小説を読みながら聴いてると思いっきり泣けちゃうわねぇ。(笑) 新宿の雑踏に一人はじめて歩いた時、ウォークマンから偶然流れてきて不覚にも涙がぽろぽろだった思い出の曲。
夕立あがれば 都会の空の隅にも 青い故郷の空を 重ねあわす 賑わう街角 肩と肩のすれ違い ふと似ている髪型に 息をとめる 愛する人と結ばれず 消える恋もあるだろう 後悔すればするほどに 鮮やかすぎて 誰でも心に後ろめたさ隠し持つ 過去を振り返るたびに 涙流す 別れてあれから 噂も途絶えたけれど 過ぎ行く月日のために 何が変わる 苦しい時に頼りたい人が ひとりいたはずさ あなたにとって重荷でも 何故に気づかぬ振りで 誰でも心に描いている夢がある かなうはずのない夢を抱いて生きる |