5/23
春らしい穏かな空だ。札内ヒュッテ前のゲートから、七ノ沢までMTBを走らせるが、路面は自動車でも問題ない。
いよいよ緊張の札内渡渉。鬼門の最下流では、渡渉点を見定めるべく右往左往。通常より上流まで左岸を巻き、少し浅くなった所で川に入る。腿まで浸かるが、半端でない水勢だ。一歩一歩、ストックを衝きながら慎重に進む。何とか渡りきって大きく息をつく。軽いと踏んでいた二箇所目も恐ろしい流速だ。やや緩い地点で股下まで浸かりながらクリア。こちらの喉がサツ・ナイ(乾く・川)だ。
巻き道のササは生え揃っておらず、快適に歩ける。足許のサクラソウ群落が鮮やかだ。上流二箇所の渡渉は案外楽に済んだが、やはり札内本流は恐ろしい。なのに惹かれるのは何故だろう。
左岸尾根の残雪は極めて少ないので、八ノ沢を辿る。920右股尾根も全くのササ薮なので素直に沢沿いに進む。900から傾斜がきつくなった途端、沢一面が雪で覆われる。
下半分の凍りついた999右岸の滝を前にプラブーツ+アイゼンに履き替える。この滝も、全面結氷したらどんな姿を見せるのだろう。水音しか聞こえない沢に佇むと、不思議な時の感覚に襲われる。
1100から上の急斜面ではやや緊張するが、高い気温に救われる。1300まで来ると、ルート選定も楽になる。白くて暑い八ノ沢カールで小休止。ルンゼを落下する滝が岩を叩く。
カールバンドには何条もの雪崩跡が刻まれている。四年前の苦汁が思い出され、足は辛いが視界の利くうちに稜線まで上がる。国境の風は思いのほか弱い。まぶしい南西稜と背後のピラミッドに見守られながら、夏の稜線を辿ってカムエクへ。
戸蔦別に立った三週間前から、季節は一気に半年進んだようだ。遥か南には霞んだペテカリ。夥しい数の燕が風を切り、「ヒュッ」という鋭い音が耳を劈く。一人で山に来るのは、五感だけを働かせる空間と時間が欲しいからだろうか、ぼんやりと思考を巡らせる。
札内ヒュッテ5:15-6:00七ノ沢出合6:10-8:00八ノ沢出合8:15
-10:1599910:35-12:50八ノ沢カール13:05‐14:50カムエク
5/24
昨夜の夢には、永らく会っていない学生時代の仲間が登場した。彼らは今、どうしているのだろう。春らしい霞み空と鶯の囀りに包まれながら、珍しくゆっくりと朝を過ごす。
午前中で既に気温は20℃。コイボクからの心地よい風を受けながら散歩気分で南下。八ノ沢を見下ろすが、昨日はなかった大きなクラックが本流に口を明けていて、下りは相当緊張しそうだ。それ以前に、随所で崩れているカールバンドの下りも平常心では難しかろう。
「五月とは思えない暑さ」と考えて、ふと立ち止まる。「月」なんて、所詮人間の都合で生まれた概念で、山にはただ「その時」が流れているだけではないか?否、「時」の存在すら関係ないのかも知れない・・・
微風のピラミッドには、キンバイの類か、黄色い花が力強く咲いている。この日は、1807の手前の残雪上に幕営。この時期だけのテン場から眺めるカムエクは最高だ。
カムエク8:00-9:20ピラミッド9:45-10:201807
5/25
翌朝もお決まりの霞み空。ガケ尾根は1650付近に雪が残るのみ。重力に任せて下るが、途中でストックを落として100m登り返す。
1297からは右岸尾根と1807の眺めが印象的だ。1227からのササ薮は、今が最盛期のダニの海。払っても払っても数え切れない位、ズボンに纏わりついてくる。これほど沢山居るのに、夏以降はどこへ消えてしまうのか。
18075:55-6:351660-9:10七ノ沢出合9:50-10:25ヒュッテ
('03/5/23〜25)
写真:カムエク夕景