札内岳(ピリカペタヌ沢)

幽遠な河畔林へ

              


 ゲート閉鎖のため、蒸し暑い中林道歩き。足元を跳ねるはエゾアカガエル。アイヌ文化では縁起が悪いとされているのに、学名では皮肉にも「Rana pirica(美しいカエル)」と称されている。目の前をバッサバッサとエゾライチョウの親鳥が横切り、羽毛に覆われた幼鳥が続く。

 昨晩の大雨の影響か、ピリカペタヌでさえもんどり打って流れている。札内本流に突っ込んでいたら、と予定変更に胸をなでおろす。湿気を帯びて幽玄な雰囲気に満ちた河畔林沿いに進む。踏跡の判然としない森を漂っていると、時間や空間の感覚が薄れ、五感が鋭く働くようになる。

 八ノ沢出合で待望の晴れ間。が、すぐに雲に覆われる。1100までは、河床の岩がやけにヌメる。渓流ではウコンウツギやヤマザクラが花開き、春と夏が同居している。

 1200付近から雪渓が現れる。滝を巻いている途中、急に上空が暗くなって大粒の雨。灰色の空の下に水色の小さな窓が空き、十勝平野がキラキラと光っている。霧雨の中、標高を稼ぐうちに悠然と大滝が現れる。今日はガスに包まれ、神秘的だ。

 1500付近からは、視界のない雪渓を詰める。彷徨、という表現がふさわしい。一瞬、背後の勝幌方面が覗くがすぐに隠れ、夕焼けも染まらない。ルンゼを終え、尾根に出るが日没が迫ってきたのでさすがに時間が気に懸かる。見えぬ同行のK君に大声で呼びかけると、ルートを見失ってはいないようで一安心。雪堤伝いに薄暗いピークへ。

 遅い夕餉を終えると、ガスの切れ間から下界の灯が見え隠れ。晴れてよかった澄んだ空気だ。ガケノ沢方面から風の音が響くが、幸いピークは無風だ。雨後のせいか、ミミズが大発生。
 

 3時頃から鳥たちが鳴き交わし、白っぽい朝を迎える。ガサガサ音がしたと思ったら、直下までシカが登ってきていた。下界は一面の雲海だ。薄赤く染まった国境を拝めば、昨日の労苦も吹き飛んでしまう。5時を過ぎると頂上はアブに支配される。早々に彼らに明け渡し、下山開始。

 勝幌を正面に、照り返しの強いルンゼを一気に下りる。いつ見ても美しいキンバイやキスミレが輝いて見える。気が緩んだのか、大滝の最後で足を滑らせ、突き指。幸い大事には至らなかったが、一瞬で暗転する沢の怖さを肝に銘じる。昨日とは別世界の大滝で休んでいると、Sさん達が登ってきた。軽装が羨ましい。

 倒木の乗った微妙なスノーブリッジを下りでは慎重にくぐり抜け、指の痛みをこらえつつへつりをクリア。1000まで下りれば大丈夫。周りを見ながら下ろうと、敢えて獣道に踏み込んでみるが、結局は前に進むことに夢中になってしまう。時を忘れたのは、魚影の動きを追い続けた淵のほとりだけだった。

('03/6/21〜22)

 

写真上:カンバも花盛り 下:早くも夏景色

  • コースタイム: 車10:27−12:47八ノ沢出合13:05−16:171360大滝16:32
            −19:00札内岳
           札内岳6:45−8:22大滝8:42-11:37八ノ沢出合11:52−14:20車

  • 印象: この時期のルンゼには、アイゼンが安心。        

  • トイレ: 戸蔦別ヒュッテが最終。