夜明けが雨模様の幕を引く。嫌が応にも気分が浮き立つ。まだ明けきらないひっそりとした沢を歩き出すと、稜線の頭が次々に黄色く染まりだす。早めに夏道から入渓したため、890二股を探し当てるのに苦労する。通い慣れた道の筈だが、沢へと一歩外れただけで夏道と全く印象が変わってしまうから不思議だ。
890左股からは壮大なゴーロが続く。沢がぐるりと右へ屈曲し、1000を越えると清らかな流れが戻る。正面奥に控える勝幌の落葉が始まっているようだ。
1080で一旦右に入るが、すぐに涸れて薮に阻まれる。水量の多い左股を遡ると、1180で二股に出た。ピークへの最短コースなら、ここの右股から小尾根を乗っ越し、先ほど涸れた沢に戻らなければならない。崩れかかった土崖を余震の恐怖に怯えながらよじ登る。
小尾根は地形図どおり1250付近で平坦になっている。
下草も少なくて歩きやすい。このままマタギ気取りで登れないこともなさそうだが、やはり眺めが欲しい。木を掴みながら適当な場所から乗っ越すと、1270に出た。一度涸れたのが信じられない程豊富な水量だ。カンバの黄葉が秋空に眩しい。
1400には門状のナメ滝。直登できるがさすがに水は冷たい。振り返れば、雲海の間から十勝平野が見え隠れ。1450から上は、丸細の彫刻刀で抉ったようなゴーロの谷。岩盤から沁みだす水は昨夜の雨か。
高度を上げ、紅葉を追い越す。水は1580で涸れ、あとは葉を落としたナナカマドのトンネルをかいくぐって進む。
オヤジの痕跡はまったくない。1650からは鬱陶しい潅木帯を掻き分け、稜線に飛び出す。眼と心を洗い流すスマクンネベツの黄葉の向うには、怒ったような札内が聳える。エクウチカウシは雲の中。
上空を雲が覆い、晩秋模様になるまでピークに佇む。その間、先着の男性と交わした言葉は「こんにちは」の一言だけ。お互いに満ち足りていて、それ以上は必要なかったのかもしれない。
下りは夏道。20年前にここを開削した八千代中の関係者に頭が下がる。が、単調な余り雑念が頭を去来する。山に入る時こそ、心を平安に保ちたいのに。
('03/9/30)
写真上:秋の縞模様 下:源頭近くで