12/28
夜明け前、帯広の気温は‐18℃。すっかり真冬の寒さだ。野塚トンネルの少ない積雪と急斜面を目の当たりにし、スキーを車に残しスノーシューで歩き出す。495まで下り、右股に入る。同じルートを辿った先達のトレースが有難い。正面奥には、悲しい位に美しいトヨニ岳。
尾根末端の雪は締まってはいるが、ササの頭が出ている。
踏み跡がなければ苦しめられるに違いない。「当たりとハズレ」「成功と失敗」の両者を知って初めて心底楽しめるのだ、と一人で勝手に納得する。
1000付近からは堅雪だが、予想通り季節風が強まる。稜線は雪雲に隠れ、不穏な様相だ。1100を越えるとそれまで鬱陶しかった樹林が疎らになって歩きやすくなる。1253には幕営跡。見上げるがトヨニは雲の中。
1460までは潅木やササ帯が続き、風も弱くジャケットの着脱に忙しい。1460に出ると急に正面からの強風で、目が覚める。展望はない。北峰から戻ってきた3人パーティにラッセルのお礼。心細いが暗黒のトヨニへ向かう。
トヨニに立つが、吹きつける横風に感慨に浸るゆとりもない。
尾根は広いのでそのままスノーシューで北へ。時折、ぽっかり空いたわずかな青空の中に雪煙の北峰が浮かぶ。
コルから登り返すに従い、風が烈しさを増す。念のため、アイゼン装着。凧のような姿で北峰への最後の登り。頂上では立っているのがやっとで、幕営は不可能。北東尾根のカンバもすさまじい轟音を立てており、日の当たる1438まで行かないと息もつけなさそうだ。
仕方なく、国境沿いに西へと進む。1440まで下るとやや風も弱まり、日も射して平和な気分に。広い尾根の北側に、潅木帯の平地を見つけて幕。の筈が、ここも風の通り道。設営中のテントを飛ばされそうになり、必死で飛びつく。日没までに適地を見つけなければ。積雪が不十分で雪洞も掘れない上にこの風だ。ビバークは絶対に避けたい。
テントをぐしゃぐしゃに畳んでザックに押し込み、なおも西へ。地形図で平坦地がありそうなのは、稜線が北へ屈曲する1460から南西に伸びる尾根だ。ここに賭けるしかない。
トレースらしき足跡に従い、1460手前からトラバースする。が、寝場所を探す焦りからか右足を滑らせ、内側の靭帯を捻ってしまう。足跡は急峻な沢地形に沿って下って行く。鹿だったのか。足跡を離れると、腿まで潜るラッセルが待っている。足の痛みを忘れ、西日の急斜面を幕場を求めて必死で進む。
何とか平坦地に辿り着く。強風が吹き抜けるが、カンバの陰に一張り分の穴を掘ると快適なテン場に。ヘトヘトだが、安堵感に包まれる。
浦河の夜景の上空を、物凄い黒雲が東へと流れていく。足の具合が気にかかる。
車6:45-7:10495二股-7:50尾根取付(550)-9:1510409:30-
10:20125310:30-11:20146011:30-11:47トヨニ-12:58北峰-13:20144014:10-15:001340
写真上:最初が最高 下:仰ぎ見る
12/29
視界は20m。足は角度によって痛む。ほぼ予定通りの停滞。前線通過のため、嫌な湿雪が落ち続ける。排泄行為がたまらなく面倒だ。
二度寝を楽しんでいると10時半頃、二回地面が揺れる。反射的に身を縮める。今回は地震だったが、雪崩であればなす術もない。
昼前から風向きが変わり、テントが揺れる。おまけに季節外れの雷鳴が轟く。あとは火事とオヤジを待つばかり。
気圧は低下したままだが、夜になって雪は止んできた。足の調子も良い。明日の青空を期待し、眠りにつく。

12/30
-12℃、小雪が舞う中1460への急登。稜線に出ると風は一層強まるが、一定方向なので構わず進む。
1486から1512へのコル付近には小雪庇が出ているが別段問題はない。
寒いと思ったら気温は-16℃まで下がっている。風の陰となっている1512に立つが、北は暗雲の中。上空の雪雲が抜けない。
眺めなしでは「ピリカ」と呼べない、とはこじつけだが、これ以上突っ込んでも確実に楽しくないので引き返す。明るくなる度にサングラスの奥から見えない太陽を探すが空しい。帰りはあっという間だ。
テントに戻ると、雲の間から太陽が覗き、金色の太平洋と白い北峰が輝く。久々に「山の時間」に従って行動している実感。
午後になると再び雪雲に覆われ、沈黙の停滞。夕方、一瞬トヨニの頭が染まる。夜、トヨニの稜線を乗り越えるようにオリオン座が昇る。再び風の音が強まる。
13407:15-7:401460-8:3515128:50-9:2014609:30-9:451340
写真上:束の間の優しさ 下:山の時間
12/31
天候は好転しないようだ。-9℃。視界不良なので撤退を決意する。
北峰までは逆風気味の横風に苦戦を強いられる。視界は50m以下。ストックを頼りによろよろ歩くがなかなか進まない。と、後方から鋭い音。ハッとして振り返る。まさか幻聴ではあるまい。体を捻ると三人パーティだ。神威から7日間で南下してきた北大生だ。馬力の違う若者達はすぐに見えなくなるが、人の姿に俄然元気づく。トレースも有難い。
北峰は三日前とは打って変わって風の陰。トヨニまでは風が背中を後押ししてくれる。トヨニから東に折れると、風は嘘のように穏かだ。先のパーティのトレース伝いに南東尾根を滑り降りると、次第に雲が切れてきた。沢はプラスの気温で、わずかに青空が覗いている。
13407:18-7:4714607:51-8:33北峰8:45-9:30トヨニ9:42-
10:11125310:19-11:26尾根取付-11:42495-12:15車
('03/12/28〜31)