沢の奥に控える北東カールに一礼して歩き出す。予報と違って曇り空だが、涼しいので薮も楽だ。
エサオマンに入渓するのは三年振りだ。
早速滑滝状の岩盤が現れる。823三股の下流では、チャイティヨーパゴダを思わせる巨岩が流れの真ん中を塞いでいる。
どこの淵も魚影が濃い。997で、ペテカリまで縦走予定という単独の強者に追いつく。湿った感じの左股に入る。
1075二股付近からは、雪渓から冷涼な空気が吹き下ろしてくる。後方に控えるは神威JP。無雪期には豪快な滑滝であろうV字谷を埋めるブリッジを登り、1150の滝(15m)へ。地盤の安定した右岸の草付きを巻いてしまうと、あとは先に進むだけだ。
1220でブリッジから下りると、あとは柔らかい滑滝の連続だ。1300辺りからは国境の眺めも利くようになり、曇天ながらも心満たされる。
高度感のある1390で一息入れ、右股に入る。1430では水量の多そうな左の小滝に入る。ブリッジの下端(1500)で水を汲み、ピッケルに縋って黙々と登る。振り向くと、新冠川源流域の縞模様が何とも言えない。わずかでも太陽が覗いてくれれば・・・
写真上:関所 下:格好のスロープ

1580で左股に入るが、細くて日当たりも悪いので堅雪だ。さすがに沢シューズでは歯が立たず、登山靴に履き替える。
雪渓の切れた1620付近からは、シラネアオイの咲く斜面を潅木を頼りに腕力勝負で喘ぎ登る。展望の殆ど無い1733に立つが、達成感には程遠い。
休み間もなく西へと踏み跡を辿る。気は楽だが元来は獣道なのだろう、胸から上の薮が濃くてはかどらない。稜線上には懐かしいカムイの糞と足跡だ。
雪田にはキンバイがひっそりと咲き乱れ、正面には札内九ノ沢が懐を開いている。
辛いと思っていた1685コルからの登り返しは案外楽だ。と思ったら、1800を越えてから強力な這松に阻まれ、消耗する。
眺めを愛でることはもちろん、飛び交う無数の虫を追い払う余裕すらないままJPへ。
エサオマンまで足を伸ばす選択肢は端からない。這松にヤニを塗りたくられたパンツは油絵のカンバスのようだ。
高曇りだが無風の幕場からは遠望が利く。日が傾くにつれ、雲が去って空が青味を増す。西は噴火湾の向こうまで、南は楽古まで見渡せる。ピラミッドと39のボテッとした頭が心和ませる。
北東カールを登ってきた朝の登山者としばし言葉を交わす。本州から来ていきなりこの眺めとは、幸せ者だ。
昇天できそうな夕空をいつまでも飽きずに眺めるうち、九ノ沢カールに1917の影が伸びて行く。
深紅の東空。雲海に浮かぶ小島は阿寒の峰か。感動の閾値が上がってしまっている自分を反省する。
三年前には拝めなかった北東カールのロートに圧倒される。日が昇るにつれ、ナメワッカに映るJPの山影が徐々に谷間へ落ちて行く。有難い光景を拝ませてくれた山の神に感謝。
のびやかなカッコウの鳴き声を聴きながら緊張の下山開始。1700から下は30°の雪壁。
この斜面用に担いできたアイゼン頼みだが、何度下っても恐ろしい。カールボーデンに降り立つと、安堵の叫び声が圏谷壁にこだまする。
うっとりするような柔らかい滑滝を下る。1200よりも下では沢面が出ている。997からは気の抜けた川歩き。鞠大の小岩が沢山埋め込まれた巨大な「豆パン岩」が流れの真ん中に屹立する。背後に望まれるエサオマンとどちらが古いのだろうか。山脈の成り立ちに思いを馳せ、「時」の感慨に浸る。
('04/7/3・4)
写真上:山上の花束 中上:どこまでも続く 中下:癒しの朝 下:ゆるり