戸蔦別岳

天にも昇る思いじゃ


 11/20 
 外は微風。見上げれば、橙がかった朝の雲がモクモクと遊ぶ。うっすらと雪化粧した林道沿いに上流へ。申し分ない十勝晴れの下、ピパイロまでは輝いているが源流域は雲の中。

 八ノ沢出合へ。凍りついた岩をなんとかプラブーツで伝って渡る。取り付きは見るからに急だ。笹を掴み、ブル道を目指して這い上がる。

 ひたすら目の前の斜面を重力に逆らって進む。途中で現れるブル道はどれも行き止まりで少しも楽できない。

 季節風よりも鹿鳴が耳に届くのは、穏かな空模様の証か。ブル道の途絶える1100を過ぎ、ようやく雪面が現れる。背後のピパイロを雪雲が覆うが、風はまだ弱い。

 1200からの平坦な尾根に出ると、カンバ林から再びエゾマツ帯へ。煩い潅木を漕ぎながら前進する。沢音だけが響き、冬らしからぬ静けさだ。

 1296コブに出ると、ようやく1790が拝める。全身に食い込む重荷によろめきながら、のそのそと急登。

 1440に出ると、やっと西風の唸りが轟く。スノーシューで緩い雪を踏みしめるうち、お誂え向きの幕場を1540に発見。

 明るい東の空と対照的に真っ暗な戸蔦別。感性に毛でも生えたのか、今回は風の音にも恐怖を感じない。

車(6号砂防)6:40-8:14八ノ沢出合8:33-11:40123011:56-
12:251296-13:251440-14:231540

 11/21 言葉は要らない
 時折月明かりがテントを照らすが、上空には足の速い雲が流れている。相変わらず吹き荒れている様子で、朝も地平線近くがわずかに焼けただけ。半ば諦めながらゆっくり準備を整えて外に出ると、神威の南から見事な日の出。排泄も忘れ、慌てて歩き出す。

 樺を掴みながら、空荷でも急な斜面を攀じ登る。1790に飛び出した途端、貴婦人然とした戸蔦別の大観望に圧倒される。風も弱く、最高の気分だ。シャッターを切り続け、昇天する。

 白すぎて近づき難い戸蔦別。案外遠そうだが、時間の許す限り進むことにする。こんな微風もあるものよ

 1650への下りは急で、帰りが厳しそうだ。できるだけ北側に寄って、ハイマツを伝うのが効率的か。下りきったコルで、行動食に用意したドリアン羊羹を口に含む。と、便のような香りが口中に広がる。ドリアン好きは別だが、生死のかかった場面でないと貪れまい。

 1710付近は細かいアップダウンが続く。なかなか最後の登りが近づかず、もどかしい。1753は吹きさらしの露岩帯で、異星の風情だ。ハイマツの下化粧

 頂上直下の急斜面では、覚悟していた強風もクラストもなく、スノーシューのまま淡々と最高点へ。眼下には白い七つ沼。遠くでカムエクが笑う。北戸蔦方面に目をやると、粉砂糖をまぶしたようなハイマツが稜線を縁取る。ピパイロよりも東はまだ晩秋模様だ。小春日和のピークでは、イワツバメが飛び交う。

 どんなに穏かでも、この時期に追い立てられる気分から離れることはできない。足早に自分の踏跡を辿る。1790に戻ると、テントが見えて一安心。

神威の空に月 見えるものすべてに感謝したくなる一日。あっという間に下りきり、無風のテン場へ。ウトウトするうちに、すっかり早まった夕焼けを見逃すが悔しさはない。

 月夜に街の灯のシーイング。降るような星空を見上げる心には、孤独感も波もない。冬にもたまにはこういう日があっていい。

15406:40-8:2017908:38-18099:00-9:1716509:27-175310:08-11:06戸蔦別11:16-175312:02-12:29165012:33-13:29179013:43-14:201540

写真上:忘れ得ぬ雪稜 中上:頂きにて 中下:這松寝床 下:月神が遊ぶ

 11/22 
 吸い込まれそうなもの凄い星空。そして、稜線上で見たら本当に天に召されそうなモルゲンロート。全てが赤くもう一日留まりたい気分だ。何度も手を合わせ、下り始める。

 1450で巨大な黒塊を発見し、2時間かけて収穫。一昨日より確実に重くなったザックが背にのしかかる。

 好天続きで笹に被っていた雪は消えている。ブル道は使えないので忠実に尾根地形を辿り、怪我に気をつけながら笹の急斜面を下る。

 出合に下り立ち、慎重に渡渉を終えると一安心だ。500m下流の凍結した崩落斜面を気を引き締めてトラバース。白く輝くピパイロに続き、艶かしい襞を纏った1967に見送られ、叫び声を上げながら林道を後にする。

15407:10-144010:00-108011:05-12:07八ノ沢出合12:20-13:40

写真:名残を惜しみつつ
('04/11/20〜22)

     
  • 印象: 林道のデブリが怖いが、早い時期なら使える尾根か。