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3/18 トヨニ川は結氷が進み、堅いブリッジが形成されている。確実に標高を上げていく手応えが、尾根末端での厳しいラッセルを乗り切るエネルギー源となる。が、大切なメモ帳を落としてしまう不始末。日高に眠るのが相応しいのさ、と言い聞かせ黙々と進む。 東の雲は切れ始めたが、国境付近だけはいつまでも暗い。足許はスノーシューが丁度良い堅さだ。 出発が遅めだったので先を急ぐ。1253から上の風は許容範囲で、あっさり東峰に立つ。トヨニ方面はホワイトアウトで腰が引ける。少し進むが埒があかないので東峰付近で幕場を探す。 初め雪庇の陰に穴を掘るが風向きが定まらないので諦め、ピークから40m下った地点に辛うじて幕営。国境での幕営には10年早いのか。 夜も日高らしく風は止まない。やがて月明かりに照らされたカンバの幹がテントに映り、外を覗けば晧晧と輝くトヨニ。風さえなければいつまでも眺めていたい光景だ。 車8:40-尾根取付(530)9:37-10:4677311:00-125313:45- 3/19 こうなると少しでも前進したくなってしまうのが悲しい性。今日歩けばピリカに届くかも、と思い直して遅い旅立ち。歩ける喜びを噛み締める。 トヨニに出るとシュンベツ川から次々と雲が押し寄せてくる。朝見えていたピリカの頭は既に雲の中だが、高曇りのうちにできるだけ北上することにする。 北 巨大雪庇の形成はこれからのようだ。1512に立つ頃には視界20m程度に。ピリカまでの前進を諦め、目をつけておいた1500北東尾根を幕営地探しに下る。 が、潅木帯の割に不定方向の風が吹き付ける。最初1400付近で穴を掘るがどうにもならず断念。風で体温が奪われてくると、幕場探しも命がけだ。生き延びるために1240まで下り、なんとか斜面を掘り崩して設営。 夕方、一瞬雲が抜けて白よりも白いピリカが顔を出す。右手に伸びる東尾根が懐かしい。翌日の晴天を思い描いてテントに入る。 が、夜に入って強まった風が容赦なくテントを潰しにかかる。 おちおち外にも出られないのでトイレにも行けない。四方からの吹溜りでテントの面積は半分に。しばらくじっと耐えるが、余りの寒さに開き直ってシュラフに収まる。ポールが折れても鼻歌を歌えるゆとりが欲しい。少し弱まった夜中の2時、ようやくトイレに出る。空は雪雲に覆われている。 142010:14-10:35トヨニ-北峰11:14-12:141512-150012:26-14:451240 3/20 当然北上は望めないが、かと言ってここでの停滞は気が休まらない。強風をついて下山することに決める。厳しい道中に備え、食糧を十分腹に詰め込む。 1500までの急登は特に苦労もないが、国境に出た途端、強い西風に煽られる。しかも予想以上に視界が悪く、足許しか見えないホワイトアウトだ。前後不覚で猛烈な不安に襲われるが、ここはルートを外した場合のことは考えず前進あるのみ。何度も歩いて地図が頭に入っている、との自負が吉と出ると信じて南下を始める。 1512からやや南東に折れる下りでは、雪庇も自分の足跡も見えず、時空の感覚も薄れ幻の中を彷徨っているよう。谷底へ向かっているのでは、との不安で足が竦む。勘だけを頼りにしばらく下るうち、スノーシューの跡を発見し胸を撫で下ろす。 雪庇の縁を目印に、距離を保ちながら南下。1460でも全く視界が失せ、足が地面から離れなくなる。意を決して数歩進むと活路が開ける。北峰まで行けば確実に戻れる、と言い聞かせて90mの登りにさしかかる。 一昨年よりも気持ちにゆとりがあるのは鈍磨した感受性の証か。ぎりぎり生き抜く上で必要なのは、透徹した五感だけなのかもしれない。頭では「あと何分」と考えながら、体はその瞬間その瞬間への対処に追われている。 ようやく北峰まで登りきって一息つく。トヨニから続く新しいアイゼンのトレースを発見し、俄然心強くなる。トヨニまでは突風に晒され、耐風姿勢での立ち往生もしばしばだが足取りは確実だ。突っ張りつづけで腕が重い。冷静に最高点を見極め、視界のない東峰への下りへ。 雲間からトヨニ川源頭が覗き、思わず「フウーッ」とため息を漏らす。東峰から1253の下りでも横風が強いが、今までの比ではない。 野塚トンネルが見えてきた。「生還」の二文字を噛み締めようとしていた矢先に、本州からのツアー客が二張り。はしゃぎ回るオバチャン達を見たら気が抜けた。 12409:15-10:25150010:29-11:46北峰11:53-東峰12:46-
印象:3月下旬でも国境の春は遠い。
早朝、みぞれ模様の野塚トンネル。装備は万全だが、すっかりやる気を削がれ車中で待機。逡巡すること2時間、小降りになる気配もないので一旦出直しを決め豊似まで下る。と、そこに広がるは素晴らしい青空。回復の予報にも後押しされて、再びトンネル駐車場へ。
東峰(1460)14:46-16:101420
朝、空はまずまずの青さだが暴風の轟音に怖気づいて停滞を決め込む。が、射しこむ朝日にぬくだまってウトウトするうちに風が弱まり、頭上の東峰で巻き上がっていた雪煙もおさまってきた。峰に立つ頃には自分も雲の中に入ってしまったが、視界・風とも耐えられそうなので構わず進む。以前よりは気持ちに余裕がある。
雪の少なさから十分ブロックを積まなかった準備不足を悔やむが始まらない。今宵は月明かりも不気味に思えてしまう。ブーツを履き、いつテントが引き裂かれても雪洞を掘れる体勢で待機する。
どうにか季節風を凌ぎ切った。疲れきって束の間の休息。朝、下界は移動性高気圧・晴れの予報だが吹雪の山上では空しい。
13:00125313:06-13:56尾根取付14:05-14:50車