九州中央山地。中でも、大崩山には「ひっそりと聳え立つ険しい峰」そんな憧れを抱いてきた。地図を見ると有名な祖母・傾までつなげられそうだが、3泊で全部を歩くのは厳しそうだ。結局、大崩登山口から入り、渓谷美だけ堪能するショートカットを取って、五葉・夏木・傾・祖母と結ぶことにする。
5/3
大型連休だけあって、「ドリームにちりん」は大混雑。座れたのは幸運だが、隣の巨漢女性に圧迫されてひとつも眠れない。「ナイトメアにちりん」と呼ぶことにしよう。
早朝の延岡は肌寒い。以前下車した記憶は蘇ってこない。企業城下町のせいなのか、牛乳にまで「旭」の名がついている。登山口の上祝子(かみほうり)行きのバスは祝子川上流に向かうが、最初から最後まで貸切状態。
優しい運転手氏と言葉を交わすうち、終点着。
実際の登山口は最終集落である上祝子からさらに5kmほど奥にある。車道をてくてく歩いていく。段々畑から造林地に変わり、やがて路肩に自家用車の縦列。ここから3時間で大崩に届くのだが、ぐっとこらえて本流沿いの道を歩く。まずまず立派な大崩山荘を過ぎると、いよいよ瀬戸口谷だ。
しかし、登山道はかなりの高巻きで、川の水は拝めない。満開のアケボノツツジと新緑が眩しい。数十mはある花崗岩帯は、陽光を浴びてまろやかだ。吐野でようやく沢に下りる。
水は深いエメラルドグリーン、河床はさらさらした白さの巨岩、思わずくつろぎたくなる。ここからは沢沿いを岩伝いに遡行する。
水量は少なく、登山靴で問題ない。木々のたたずまいは、深山の雰囲気を放っている。魚影も多い。一箇所滝が現れるが特に困難はない。
滝を越え、夏木南峰への不明瞭な分岐を過ぎてしばらく行くと沢は涸れ、傾斜がきつくなってくる。昼間の直射日光が応える。不明瞭な踏み跡をケルンを頼りに辿り、最後はスズタケのブッシュを10分ほど漕いで稜線(お姫・五葉の鞍部)に出る。擦り傷だらけだ。期待していた展望は、尾根の西斜面に広がる伐採地によって裏切られた。
五葉のピークからは阿蘇まで見渡せるが、気温が高くて日なたにいられない。予定では夏木との間で幕営だったが、適地を探すうちに夏木山頂に着いていた。水場もないのにテント3張り。隣人にご馳走になった柚子胡椒入りの豚汁は最高だ。この時点で水が2リットル。予想外の暑さに、かなり消費している。明日はテン場まで水場がない。
上祝子8:10−9:15大崩登山口−11:10吐野11:30−14:50五葉岳15:05−16:30夏木山
写真上:聳える岩峰 中:瀬戸口谷 下:夏木夕景

5/4
さすが九州、夜も冷え込まない。防寒着の出番もない。「大鋸小鋸」はナイフリッジではないが、梯子が水平にかつ傾いてかかっていたりするスリリングな岩場だ。アップダウンも多く、侮れない。桧山・新百姓山へと徐々に標高を下げていく。すれ違うアケボノツツジの花見客にとっては異様な大荷物だろう。
杉ヶ越の社は涼風が吹き抜け、ようやく体温が下がる。水の残量は1リットル。一番暑くなる時間帯に、700mの登りが控えている。懸念が現実になりつつある。
傾までは梯子やロープで岩峰の昇り降りをひたすら繰り返す。どこまで標高を稼いだかもわからない。陽気に誘われてマムシが日光浴しているので、うかつに岩に触る事もできない。登山者もぱったり途絶えた。気が遠くなる位のアップダウンに、脱水も加わってかなりペースダウン。肩で息をし、ノロノロと10分歩いては腰をおろす。

なんと、九折越からの登山道との合流地点までに4時間を要した。空荷で傾を目指すが、最大の関心事は水だ。霞んではいるが、ピークからの眺めは良好。しかし満喫できない。体が水を欲している。デポ地点から九折越までは下るだけだが、息が切れて進めない。何度も休んで半ば朦朧としながらテン場に倒れこむ。水の残量は一口か二口分。
不思議なもので、「水場まで下り5分」の看板を見るや、ひとりでに飛び起きて韋駄天の如く坂を駆け下りている。水場を見るや、心の底から「うおーっ、水だ!」と叫ぶ。一気に紅茶を2リットル飲み干せたのだから余程危なかったのだろう。
夏木山7:10−10:20杉ヶ越10:45−14:50合流地点15:00−15:20傾山15:30−16:40九折越
5/5
翌朝起きると気分はすっかり良くなっている。昨夜、縦走中止を考えた弱気の虫はどこかへ行ってしまったようだ。傾を拝めるあずましいテン場に後ろ髪を引かれながら出発。
スズタケの中を黙々と進む。尾根筋だがなかなか展望は開けない。この辺りは九州で最も深い森と言われているが、どこも伐採されてしまってツキノワグマが棲めるとはとても思えない。笠松・本谷を過ぎ、三国岩で一息つく。岩の正面には古祖母山がどっしりと構える。尾平越まで下ると下界の暑さだ。

古祖母への460mの登りは、昨日に比べれば屁でもない。いつの間にか山頂だ。少し雲が出てきて凌ぎやすい。障子岳・烏帽子岩の辺りは高山の雰囲気。眺めも楽しい。最後の登りを終え、祖母山頂に立つ。三日間歩いてきた山並みが霞んでいる分かなたに見える。
まだ日が高いので九合目でしっかり水を補給し、八合目下の国観峠で幕営。広い平坦地だが、お地蔵さんもいて落ち着かない。それでも久々に一人、満天の星空を味わう。
九折越7:30−9:15三国岩9:30−11:55古祖母山12:15−15:00祖母山15:15−16:30国観峠
古祖母(左)・天狗岩・祖母
5/6
疲労が蓄積した体には、下りもなかなかきつい。足がガタガタだ。駐車場のある一合目からは再度林道歩き。神原(こうばる)からのバスはゼロに近いので久々にヒッチし、豊後竹田へ。竹田茶寮なる温泉宿の風呂で四日分の汗を流し、街の食堂でだんご汁をかき込み、帰路につく。今回逃した大崩は次回、沢を楽しみながらにしよう。
国観峠7:30−8:55五合目9:00−10:30神原
('00/5/3〜6)