落石降りしきるフンジェラーブ峠

落石降りしきるフンジェラーブ峠


山坊主


 まえがき
 パキスタンと中国を分かつフンジェラーブ峠。筆者はここを越えるために、パキスタン側の国境の街、スストにやってきた。
 


 カラコルム・ハイウェイを走るバスの屋根に陣取り、左右から迫る秀峰や大規模な氷河に見入る。晴れていれば、迫力も数倍だろう。グルミットから1時間強で、国境の街スストに到着。

 税関の周りには小さな店やホテルが立ち並び、なかなか賑やかだ。ここまで鄙びた場所にもかかわらず、ツーリスト・ロッジのドミトリーは45ルピー、中国行きのバスに至っては300ルピーと物価だけは都会並みだ。(当時1ルピー=6円、ギルギットのホテル:シングル=50ルピー)

 うまくないダウロで腹を満たす。スストにて辺りをブラブラするが、標高のせいか肌寒い。氷雨が追い討ちをかける。ホテルに戻ってもホットシャワーなど望むべくもない。毛布を引っかぶって丸くなる。

 朝になっても雨はシトシト降り続いている。よく考えたら雨はピンディ以来、3週間ぶりだ。外を見ると、山の雪線が昨日より下がっている。とても8月とは思えない。

 

 出国手続きはあっさりと済んだ。Tシャツの上にベスト、雨合羽を重ねるがそれでも寒い。パキ人の毛皮の上着が羨ましい。

 国境越えの乗客は、ランドクルーザーに7、8人ずつ分乗する。ここからの峠越えがどんなものになるか、この時は想像もつかなかった。

 前日の雨のせいか、道は所々で崖崩れを起こしている。初めはランクルの機動力で越えていたが、やがて前方に立ち往生している車が見えた。停車して待っていたら、上方から「ゴロ、ゴロ」という無気味な音。落石だ。車内のパキ人は青ざめて外に飛び出すが、私は後部座席のドアが開かず、しばらく車内に伏せる。が、「ガチャン」すぐ横の窓ガラスに落石が直撃したのだ。この時は生きた心地がしなかった。急いで前のドアから降り、危険地帯を走り抜ける。高山病の危険などに構う余裕はない。

 なんとかここを通過するが、今度は土砂崩れで道が埋まっている。乗客総出の復旧作業手前には十台近い車。引き返すことも覚悟したが、ここからが見ものだった。

 道具類の全くない中、乗客達はひたすら人海戦術で土砂を川に落としていく。二時間近い作業の末、乗客たちはついに通行可能にしてしまった。無理だと思ったバスまでも、手で押して通してしまったのには感動した。こんな光景は、絶対に日本では見られないだろう。

 その先ではさらに大規模な落石地帯に出くわす。ここも車から飛び出して駆け抜けざるをえない。

 車は徐々に高度を上げていく。寒くなってきたと思ったら、いつの間にか辺りは吹雪いている。先の落石で窓が割れているので、雪と風が容赦なく吹き込む。

 こうなると「早く着いてくれ」と一心に願う。フンジェラーブ峠に着いても、何の感動もない。国境碑を前に写真を撮ってすぐ出発。峠の下りは路面は悪くないが、とにかく寒い。

 峠から30km下ったピラリで中国の入国手続き。寒さはややおさまった。パキ人の入国用紙を書いてやるのに手間取る。景色は全く変わらないが、窓口の向こうはアクの強いパキ人ではなくて、無表情な中国人だ。

 腹が減った。固くてまずいパンと暖かくてまずまずのカバブを詰め込み、タシュクルガン行きのバスに乗り込む。今晩は待望の中華料理だ。