林道入り口から1.2km地点で暗い夜明けを迎える。昨年よりも積雪は多いようだ。辺り一面灰色で削がれかかったやる気を奮い立たせて歩き出す。雪面の締まり具合は丁度良い。眺めがないので黙々と歩を進める。明るさも変わらないので、空間だけでなく時間の感覚まで失われそうだ。
登山口に立つ頃、わずかに青空が覗く。多少は望みがありそうだ。植林帯を縫って標高を稼ぐうち、月のような「朧太陽」の光が射してきた。「ヤマクリオネ」と勝手に呼んでいるオオカメノキが春の出番をうかがっているようだ。1000付近でガスが切れ、妙敷方面が突然現れる。震えるような驚きだが、その喜びも束の間だった。
下界は雲海、風もなく静寂が支配する。夏道に合流してからはひたすら雪堤歩き。5ヶ月振りの尾根は何と歩きやすいことか。振り返ると霞んだ剣山。再びガスの中を淡々と登る。無心になれる時間は有難い。
9合目を越えるが、不思議と風は全くない。穏かなピークに立つと、戸蔦別が覗く。その優美な雪面は、「純白」という表現が許されるなら、この上ない白さだ。その奥に幌尻が一瞬現れ、拝むようにフィルムにおさめる。雲を通しても、日光が頭を射るように暑い。
伏美直下の急斜面は、カチカチではないが視界も利かずスノーシューでは厳しい。途中からアイゼンに履き替えるが、すぐに斜度は緩くなる。1600Jは北西尾根の方が明瞭だ。1400から下は、広い所では30m近くになろうかという雪堤歩き。
この頃から時折、ピパイロ川源流域の稜線が顔を出す。
鋭い1726はどこから見ても絵になる。1430からの登りで意外にも手間取る。初めは下が空洞のハイマツ帯、トムラピーク手前では薮を腿まで埋まりながら泳ぐ。
トムラウシ頂上の西面には潅木が生い茂っていて展望は今ひとつ。北の空は晴れてはいるが白っぽい。スノーシューに履き替え、下山開始。左手の芽室岳に気持を癒されるが、1053から東で深雪に阻まれる。細かいアップダウンが足に響くが、進むしかない。
1005を過ぎ、積雪が明らかに減ったと同時に鹿道が現れる。辺りの地面には夥しい糞。細い枝や冬芽はことごとく毟り取られ、すさまじい生への意思を見せつけられる。足許から、突然エゾライチョウの番が飛び立つ。鈍感なのは奴らなのか、それとも自分か。1003からは一気に尾根を駆け下りる。ササ薮はまだ頭を見せておらず、30分で林道に出た。
('03/04/5)
写真上:僅かに覗いた戸蔦別 下:潅木帯から望む1726