カムイエクウチカウシ(八ノ沢)

命縮むカールバンド

   


 澄み切った青空に連なる山並み。車窓からの眺めに、ひとりほくそえむ。今日は待ちに待ったカムエク挑戦の日なのだ。札内川七ノ沢出合には車が1台。先導が居るのは心強い。

 初っ端から札内川の太い流れを渡渉しなくてはならない。身を切る冷たさの雪解け水に、足がどうにかなりそうだ。水勢はさほどではないが、対岸に上がり、しばし呆然。こんな渡渉を繰り返せるのか?

 気を取り直し、河畔に付けられたトレースを辿る。新緑が眩しい。渡渉回数を減らそうともがくが、次第にその虚しさに気づく。怖くても冷たくても、慎重に渡るにこしたことはないのだ。幸い、水深は深くても腿までである。

 仲ノ沢は完全に雪に埋もれている。この先、八ノ沢の遡行が思いやられる。数回渡渉した後、なおも行くと広いガレ場に出る。八ノ沢出合だ。さすがに人の臭いがする。稜線は木々に隠れているのか、見上げることはできない。

 八ノ沢には巻き道がある、と聞いていたが、踏み跡を見つけられず、川の中を歩く。結構時間を食う。カールまで行けるのか?

 程なく次々に雪渓が現れる。運動靴にいつ見切りをつけようか。それ以前に、沢に雪が付いていて900m二股さえはっきり同定できない。雪渓をなおも登ると、三股に出る。ここは間違えようがない。登山靴+軽アイゼンに替え、真中の滝の左岸につけられた巻き道に取り付く。

 ほっとする間もなく、細い支谷を遡るうちに急斜面の藪にぶつかる。強引に進むが、展望は開けないし、藪は濃くなるばかり。この付近で30分以上さまよう。ようやく、左手に突破口を見出し、明瞭な巻き道に戻る。雪渓に埋まった谷には細心の注意が必要だ。

 カールまでの斜面は急だが、迷うことはない。キックステップにも疲れた頃、白い傾斜が緩くなり、一張りのテントを見つける。一人では到底この先へは進めないが、ピークを目指すこの3人組パーティに同行をお願いする。

 夕方、東の空がやや明るくなり、奥に聳える勝幌が顔を出す。真っ白なカールの上に、月が昇る。明日は晴れてくれるだろう。

 朝、冬毛のオコジョに出会う。天気の方は残念ながら、ガスで視界不良だ。ピラミッド寄りの1700コルを目指し、カールバンドをトラバースするが、見えない以上、勘にしか頼れない。途中、パーティの女性が滑落する。一瞬の静寂後、「止まりました!」とガスの中から元気な声。正直、この時は肝が冷えた。渓流シューズでこの雪渓は危険だ。自分の軽アイゼンでも不安なのだ。

 稜線付近は、雪庇がハングする格好だ。枝をつかみ、全身を投げ出すように稜線上へ。帰路が不安だ。山頂へは、ハイマツ帯を縫ってトレースがついている。視界はないが、地面が出ていて歩きやすい。

 高度感を覚えることなく、カムエクのピークに立つ。実感はない。眺められたものと言えば、雲が切れた一瞬のブロッケンのみである。

 カールへの下りは、登りよりも手前から下降したのが祟って恐ろしいことになる。藪を伝って降りられると踏んだのが間違いで、どこまで続いているか分からない急斜面を一歩ずつ後ろ向きに下る。テントが見え、助かった実感が湧いてくる。

 カールからの下降は、一人ではないし道も分かっているので楽だ。1200m付近の滝の上で、左の小沢に乗っ越す巻き道さえ見失わなければ大丈夫だ。最初はあんなに恐ろしかった札内川の渡渉も楽しい。次こそ、晴天のカムエクに立つと誓って帰路につく。('99/6/19〜20)

写真上:勝幌夕景 下:八ノ沢カール

  • コースタイム: 七ノ沢出合〜八ノ沢出合 2時間 八ノ沢出合〜八ノ沢カール 登り4時間 下り3時間 
             八ノ沢カール〜カムエク 登り・下り共2時間  

  • 印象: 八ノ沢ではよく事故が起きているので、慎重に。札内川本流も侮れない。増水にはくれぐれも注意。 

  • トイレ: 札内ヒュッテが最終だが、かなり手前