七ツ沼カール。厳しく、遠く、自分とは無縁だと思っていた。ところが、地図を見ると時間さえかければ行けそうだ。しかも、北戸蔦別からなら、沢登りもしなくてよさそうだ。
初秋のチロロ林道は、穏やかな天気だ。助手席には、例によって休みを合わせたSさんだ。登山口となる二岐沢出合には、車が一台。
二岐沢の上流、北電の取水ダムまでは林道歩き。工事の車両は入れるのに・・・荷物が肩に食い込み、地面を睨まねばならない。早くも、日高の山々に屈従の姿勢。取水ダムのすぐ先で、右手から出合う二ノ沢へ入る。踏み跡沿いで、水に入らなくてよいのが幸いだ。この辺りの紅葉はまだのようだ。
沢の斜度がきつくなってくるにつれ、踏み跡も不明瞭になる。本流の脇の細い流れにつけられた赤布に従って進む。登山靴でも気持ちのいい沢歩きだ。両岸が迫ってくる辺り、どこまでも辿りたい気分の沢だが、ガイドにあるとおり、道は尾根へと登っている。
それまでのゆったりした登りとは打って変わって、いきなり「グイグイ尾根」だ。アキレス腱が伸びきってしまいそうだ。トッタの泉で、既に息が上がっている。まさに命の水、と喉を潤す。上を見ても果てしない急斜面。一人5リットルの水は多すぎたか。とにかく進まない。曇ってきて展望も利かず、どこまで登ったのか見当もつかない。
数えられないくらい休憩した頃、岩交じりのハイマツ帯が目に入る。稜線は近い。進まない足を懸命に押し出すようにして、樹林帯を抜ける。わずかな尾根歩きで、ヌカビラ岳だ。前方はガスで展望はない。振り返ると、登ってきた日高町方面が見下ろせる。よくも1日でここまで来たものだ。
テン場を求めて稜線を歩く。
よさそうな窪地だ、と思ったら激しい掘り返し。とても泊まる気にならない。そうこうするうち、登りが終わった。何も見えないので断定は出来ないが、北戸蔦まで来たようだ。ちょうど一張り分のスペースに幕営。夕方、一瞬ガスの切れ間から鋭い峰が姿を現す。あれが戸蔦別か。明日は回復するだろうか。
夜中降り続いた雨はあがった。起き出すと、雲が凄い速度で飛ばされ、初めて見る稜線が目の前に開ける。感動的としか言いようがない。赤茶けた斜面は、紅葉しているのだろう。
心躍らせ、戸蔦別へ向かう。Cカールの地形を目の当たりにしても、驚嘆の声しか上がらない。ここでも激しい掘り返しと糞を目にし、カールボーデンに目を凝らすがそれらしい姿はない。
1881を越えると、幌尻北カールが飛び込んできた。カールの上をぐるっと巻いている幌尻の登山道は、さぞかし爽快だろう。
戸蔦別までのルートは歩きやすいし、最後の上りも昨日に比べれば屁でもない。
戸蔦別のピークに立つ。思わず、Sさんと握手。眼下の七ツ沼には、ハイマツの間にナナカマドの赤がちりばめられている。かなりの高度感である。沼の数は時期によって変わるのだろうが、小さいのを入れても六つ。標高を下げると、カンバの黄色が眩しいくらいだ。遠くには、エサオマンも、カムエクも、1839も聳えている。
至福のひと時を過ごし、七ツ沼へ下りる。暑いくらいの陽気が、テントでの午睡に誘う。が、思い直して幌尻へ向かう。当然ながら、空荷は楽だ。南寄りのルンゼを詰め、稜線に出る。幌尻までの道のりは、ルートは一層はっきりし、口笛でも吹きたい気分だ。
幌尻ピークでうたた寝した後、七ツ沼のテントでも昼寝。地面が細かい砂地なので、寝心地も申し分ないのだ。夕方、中日高の山並みが赤く染まる。夜は満天の星空を仰ぎ、ニヤけながら最高の1日を終える。この七ツ沼の快感を、忘れることはないだろう。
翌日も晴れ。水はやや大目だったが、安心感が違う。戸蔦別への登りは、なんとなく後ろ髪ひかれる思いだ。稜線をしっかり目に焼き付け、ピークを後にする。あれだけ登りで苦労した、二ノ沢への下りが、余りにも短い。最後は、二ノ沢出合で水浴びだ。('98/9/12〜14)
写真上:新冠川源流を望む 中:七ツ沼カール秋景 下:幌尻からの北望