コイカクシュサツナイ〜カムイエクウチカウシ

ベロベロの稜線へ


 朝起きるとだるい。熱がある。季節はずれの風邪で、エサオマンからカムエクまでの縦走を諦めざるを得なくなった。担当になっていた食糧をSさんに渡すのが、とてつもなく悔しい。

 二日後。前日までの微熱がすっかり下がった。1日遅れだが、今日出れば先輩方にカムエクで会えるかもしれない。空も秋の好天を約束している。

 早朝のコイカクシュサツナイ川は、さすがに9月の水温だが、水量も少なく歩きやすい。

 快調に上二股を過ぎ、夏尾根に取り付く。一休みしようと、ザックを地面に下ろした瞬間、苦い香りが広がる。虎の子のエビスに穴が開いてしまったのだ。登りを前に飲み干す訳にもいかず、泣く泣く地面を潤す。

 体調が不安だが、ゆっくりと着実に夏尾根を登る。日帰り装備で登った昨年とは負荷は違うが、距離感をつかんでいる分、今回の方が楽かもしれない。初日は最低コイカクまでで、あとは体との相談だ。

 夏尾根を登りきり、稜線に立つ。やや雲がかかっているが、視界は良好、風も弱く心地よい。当然、花の季節は終わっている。東の空の下には十勝平野が広がる。まだ午前中、明日を考えると前進しておいた方がよさそうだ。

 1時間ほど休み、鋭気を養う。ここからは、ヤブ漕ぎを覚悟しなければならない。平らなピークの西(1700)から北に折れ、一気に1444まで下降する。尾根は主にガレ場で、思っていたよりもしっかりした踏み跡がついているが、下るにつれて潅木がうるさくなってくる。やはり万全の体調ではなかったか。途中で腰をおろす。

 1444からは、1643がはるか遠くに望まれる。登りでは、かなり息が切れる。休み休み進み、1643へ。記録どおり、なんとかビバークできそうだ。1823までは持ちそうもないので、本日はここまで。 

 暖かい西日の中、昼寝を楽しむうちに、雲が切れて稜線が見えてくる。遠くにはエサオマンが、鋭いピークをのぞかせている。南の1839は、絵のようだ。

 夜、山あいに点滅する光。横断道路のコイカク沢出合だろうか。近くなったのは便利だが、反面ちょっと寂しい気もする。

 翌朝、ガスの中カムエクに向けて出発。1560のコルを過ぎる辺りから、急に東側のガスが切れ、朝日を浴びる。その先、1823までは、左手に自分のブロッケンを眺めながら登る。

 1823に出る。やや風があるが、太陽があるので暖かい。今から歩く尾根が北に連なっており、無性に楽しくなる。カムエクには雲がかかっているが、じきに切れるだろう。1602付近のガレ場は、ここからだとなんとも気持ちよさそうに見える。

 だが、楽しい思いは続かない。高山の雰囲気漂う稜線は1737までで、そこから標高を下げると完全なヤブ漕ぎだ。トレースを見失うことはないが、ハイマツに加えてカンバなどの潅木が行く手を完全に遮る。1602まで、距離は短いがかなり時間と体力を消耗する。細かいアップダウンもこたえる。

 1602まで来ると、厳しいヤブが切れる。この辺は平らで、幕営にも適しているが、クマが激しく掘り返した跡とおびただしい糞がその思いを打ち消す。辺りの岩稜帯は、一瞬大雪を思い出させる。

 一息入れ、1807へ。エサオマンまで続く稜線が目に入ってくる。雲は殆ど切れ、カムエクも姿を現した。西に折れ、鞍部を越え、ピラミッドに立つ。ここの登りはやや痩せていて歩きにくい。振り返ると踏破したヤブ尾根。よく歩いたものだ。

 間近で目にする雄々しいカムエクを目指し、急な尾根を下る。

 150m下りきり、八ノ沢カールを見下ろす。笛を吹きまくったので、クマも隠れているだろう。あとはザックをデポし、空荷で登るだけだ。恐ろしかった6月とは違って、今日は幸福感に満たされている。ここから直下までは、稜線南西側のハイマツ帯を縫って、しっかりした道がついている。

 山頂に人影。二人連れだ。きっとAさんとSさんだ。「オーイ」と必死に声を上げるが、なかなかこちらには気づかない。つい、ハイペースになってピークへ向かう。

 めでたく、快晴無風のピークで合流。初めて目にするカムエクからの展望だ。どこを見渡しても深い谷が山肌に食い込んでいる。眼下のコイボクカールがなんとも言えず、平和そうだ。秋空のもと、しばしの午睡と、Aさん曰く「ベロベロ」の稜線を堪能する。遠くなったコイカクを眺め、自己満足に浸る。エサオマンから入った先輩方も、いい表情をしている。

 単独なら、クマの糞と掘り返しだらけの八ノ沢カールは不安だが、3人居れば安心だ。うまい水も飲めたし、最高だ。夜も無風。朝焼けのおまけもついた。

 翌朝、四日目とは思えない元気な足取りの先輩二人と八ノ沢、そして札内川を下る。晴れて水量が少ない沢は実に爽快だ。 ('99/9/16〜18)

 

写真上:コイカクからの北望 中上:朝のピラミッド 中下:ピラミッドからのカムエク 下:1917(手前)と北日高

  • コースタイム: コイカク登山口5:30−7:40上二股7:50−10:45コイカク1719
             11:40−13:101444コル13:20−14:051643
             16435:50-6:5518237:10-9:0516029:25-9:451807
             10:00−10:45170010:55−11:40カムエク14:20−15:15
             八ノ沢カール
             八ノ沢カール6:00−8:55八ノ沢出合9:10−10:20七ノ沢出合

  • 印象: 水は八ノ沢カールでしか取れない。夏のヤブ漕ぎはかなり消耗するので、十分水を用意したい。
        カムエクを初め、北を眺めて歩きたければコイカクから登るのが良いが、この尾根の急登を避けたければ、
        カムエクからになろう。テン場は、1823・コイカクにもある。        

  • トイレ: 札内ヒュッテが最終。