ヒグマは凶悪犯か?

ヒグマは凶悪犯か?


山坊主


 今年(2001年)の夏、道東・道北では7月からの1ヶ月で少なくとも10件、ヒグマの人里への接近が報じられている。

月日場所内容頭数性別・年齢
7/8音威子府村筬島特急列車と衝突死1頭♂、不明
7/10雄武町北幌内肉牛2頭を襲撃1頭不明
7/19占冠村シムカップ東占冠信号場特急列車と衝突死1頭不明
7/23清水町羽帯
(道東自動車道)
自動車と衝突死1頭♀、4〜5歳
7/24芽室町上関山
(道東自動車道)
高速道路を横断2頭
(親子連れ?)
不明
7/25浦幌町常室箱わなで捕獲後、射殺1頭♀、3歳
7/26上士幌町糠平おりで捕獲後、射殺1頭♀、3歳
7/27上士幌町糠平スキー場、国道で目撃2頭(?)不明
8/4白滝村東白滝豚舎の豚を襲撃1頭不明、5〜6歳
8/5留辺蕊町厚和ビート畑で発見、射殺1頭♂、4歳

 このように、今年は特にクマの接近が多いようだ。ヒグマの個体数自体は、近年横ばいと考えられている。警戒心が薄い個体が増えたのか、それとも今年は特に山奥の餌が少ないのか。雄よりも縄張りが狭いとされる雌の出現は、山の生息好適地が狭まって縄張りを持てなくなった結果なのか。

 そもそも、クマの食性の約90%は植物だ。夏はフキ、秋はドングリや草木の実を食べ、動物性の餌の多くは昆虫(アリやハチ)だ。シカの死骸やサケももちろん食べるが、ヒトを含めて生きている動物を積極的に襲う習性はない。それなのに、人里に出てきただけで射殺されてしまう。このことに疑問を抱く人は少なくないはずだ。

 多くの場合、生ゴミや畜産廃棄物の不適切な処理を通し、私たちが彼らをおびき寄せている。ひとたび人里イコール餌場、と覚えてしまったら最後、クマの行動はエスカレートする一方だ。

 しかし、「邪魔者は消した」という凶悪犯扱いの報道姿勢には、「駆除せざるを得なかった。」無念さは一切感じられない。わが国でクマの生態が一般に理解されていない証だろう。クマの接近に際しては、「なぜ、人里に下りてくるか。」「下りてこないようにするには、どうしたらよいか。」といった観点から、私たち自身の責任を検討し、世界にも例のない、日本での野蛮な「有害獣としての駆除」(人間と生息地の近いオーストリアやフランスでも保護が基本)の現状についても、広く報じるべきだろう。

 「即刻駆除」というお粗末な対応を改めるには、出現する原因の究明や適切できめ細かいマニュアル作りがもちろん必要だ。さらに、多くの人々がクマの生態を深く理解した上で、道を探ることが重要になろう。 
 住民と研究者が情報の共有に向けて動き出した浦幌での試みは、知識・知恵を高め合い、クマとの共生を探る第一歩として期待される。また、人とクマの距離が特に近い知床では、「クマを引き寄せない」、「危険なクマをつくらない」といった取り組みにチャレンジし、地元の人々も共生を意識するようになっている。(斜里町製作「知床半島のヒグマと安全対策」)知床を特別なケースとしてではなく、北海道全体の問題として捉えたい。

 ヒグマの保護管理は、北海道における公共事業の重点として掲げるに値する。被害農家への助成・助言はもちろん、試験的に「放置同然の国有林を多様な森林に再生する」、「サケを孵化場で根こそぎ取らず、一部を上流へ遡上させる」といった、クマの餌を増やす(元に戻す)方策も検討できないだろうか。 

 ヒグマが、世界的に見ても北海道の貴重な財産であることをもっと誇ろうではないか。

(2001.8.4)