広尾岳(西広尾川)

ありゃ鹿神か?


 朝陽が東の雲を押し上げ、地平に橙の縞模様を描く。Sさん宅のトトロが見当たらず、がっかりする。4ヶ月振りの西広尾林道は、すっかり夏色に衣替えしている。

 霧雨の中、現在地の見当をつけて歩き出す。最初の二股を勘で左に入って成功。河畔林を縫ってうっすら続く獣道を辿る。沢相は優しいが、削られた岸からは大木の根が覗いている。500を過ぎても河畔は広い。

 600左股(広尾岳直登沢)は小滝が連続しているが、上部はガスの中。ここは確実な右股を取る。700付近にスノーブリッジがかかるが、雪渓はその後源頭まで現れない。「チー、チー、チチチチ」キセキレイの伸びのある囀りが響く。空がやや明るくなってきた。

 カンバの幹が、雪で岩に押しつけられて変形している。その逞しさを自分と比べてしまうのは、今の心境ゆえか。狭くなった両岸には、顕著な鹿道が刻まれている。圧倒されました

 1000からは雪渓が埋めるが、すぐに消える。源頭(1060)から幻想的な光の射すカンバ林を抜け、懐かしの1186へ。ガスのためハイマツの花しか見えない。早々に広尾岳を目指す。

 カンバの生い茂る斜面を縦横に横切る鹿道を辿り、何の苦もなく尾根を北上。途中、大きなエゾライチョウが目の前の枝に止まる。もう少し傍で、と一歩踏み出した途端に飛び去ってしまった。これが、野生と人との越えられない間合いなのだろうか。その直後、30m前方で茶色い何かがゆったりと動く。カンバの間から、威厳ある大鹿がじっとこちらを見据えている。どの位の時間だろう、しばらくじっと見詰め合っていた。急に、周りから見られている感覚に襲われる。

 コルから高度を上げ、適当にハイマツを突っ切るとそこは頂だった。冬の思い出に浸りたいが、薄日が痛い割にガスは晴れない。時折、澄んだ青空が切れ間から望まれるだけに惜しい。

 帰路は、鹿道伝いにテープをつけたような登山道を下る。1000を切ると青空だ。776から下ではトドマツが出現する。背より高いササ帯は、例によってダニ王国だ。沢に下り立って振り返るが、最後まで広尾の頂きは隠れたまま。

 帰り道、Sさん宅に立ち寄る。暗がりでは見えなかったが、トトロは少し移動しただけだったのだ。元気な姿を見て、一安心。

('03/6/28)

写真:永遠なるものからの贈り物

  • コースタイム: 
     車(290)5:17-7:32600二股7:42-9:1010609:23-9:451186-
     10:32広尾岳11:07-12:00776-13:00車

  • 印象: 広尾岳南方のカンバ林は凄い、の一言。 

  • トイレ: 野塚の集落より先にはない