妙敷〜ピパイロ

穏やかな春山


 意外にも、ニタナイ川林道のゲートは開いている。この時期としては異例だ。路肩には真新しい木材が積まれいてる。勢いに任せて、渓流橋から1km以上だましだまし入る。雪が深くなってきたので戻ろうとバックを始めたとき、タイヤがスタック。一瞬青ざめるが、やわい根雪を掘るとすぐに地面が見え、再度ふかしたらなんとか進む。助かった。

 朝の冷え込みが味方して、雪の締まりは良い。10時までが勝負だ。北斜面の伏美と北東斜面の妙敷、迷ったが予定通り妙敷にする。渓谷橋南のトムラウシ第1林道に入る。

 程なく、580の分岐だ。ここから左手に50mも行くと、尾根地形に沿ったブル道が現れる。780まで朝日を背に受けて黙々と歩く。早くも汗ばんできた。日陰に腰を下ろす。風もなく、ただただ穏やかだ。こんな日高はいつ以来だろう。

 黙々と締まった残雪を踏みしめ、緩斜面を進む。1000を過ぎてようやく登りらしくなってきたが、尾根は広く歩きやすい。崩れそうな雪庇もない。1100過ぎでアイゼン装着。ディナのザックは今まで使ってきた安さが売りのI社オリジナルとは大違い。ウェストベルトを始め、一つ一つのストラップが荷物を背中に着用するよう作られている。妙敷から望むエサオマントッタベツ川

 今日は暑さとの戦い。水分不足が心配だ。山並みが見え始めるが、黄砂の影響か雪が茶色っぽい。途中、山岳会の残した古い赤布を発見。稜線に合流すると、待ち望んでいた戸蔦別川源流の山並みが目に飛び込んできた。この気温で、妙敷への登りも雪はザクザクだ。

 ピークに立っても風を感じない、絶好の春山日和。青空も爽快だ。銀白色の札内、エサオマンの北面カールが印象的だ。

 伏美までの広い尾根でスノーシューを使う。鞍部付近は平坦で、積雪期は無数に張れる快適な幕場だ。伏美の雪崩斜面上部を見上げると、スキーヤーらしき影。が、よく見たらただの曲がったカンバだ。幻覚は疲れのサインか。

 急登もスノーシューで乗り切り、伏美ピーク着。ここで晴れたのは実は初めて。北は芽室、チロロ、ルベシベ分岐、南はエクウチカウシ、23、39、南日高三山まで。無風は有り難い。この上に完全な青空を望むのは贅沢すぎる。

 寝不足がたまっているし、西に行っても眺めは大きくは変わらない。ピパイロは明朝の楽しみにして、少し早いがピークの西端に設営する。稜線には穴を掘れるほどの雪はない。春山気分でテントのガードも控えめ。気の緩みからか、設営中にポールを斜面に流してしまう。とても無理だが後を追う。30mで止まったのは幸運としか言い様がない。

 いつもならテント内に引っ込むのだが、この日は幸せな陽光に包まれ、外で過ごせる。戸蔦別の凛とした山容に目が釘付けだ。3つのカールが白く光り、B・Cカール側の下流には氷河の通り道としては狭いが、きれいに削り取られたような跡。一度大きく下ってから登るピパイロへの尾根は、歩くには気合が要る。

 温まったテント内で、何もかけずに昼寝。顔を出せば幌尻が見える。ルベシベ朝景この陽気なら、さぞビールがうまかったろう、と悔やむが仕方がない。

 夕方になると高い雲が空を覆い、夕焼けを待たずに暗くなる。伏美ピークに立つと、ピラミッドがはっきり見える。空が暗いのが残念だ。 


 夜中の風は懸念ほど強まらず、穏やかな一夜を過ごす。珍しく目覚ましで起きだすと、星空は今ひとつだが十勝の夜景がきらめいている。山にも雲はかかっていない。ロートを期待して出発。

 最初の岩場を過ぎ、すぐにアイゼン装着。尾根は十分広く、危険な雪庇もない。1546までひたすら下り、1542まで樹林帯の小さなアップダウン。思った以上にダラダラと遠い。この辺で山並みの東斜面が赤く染まり、少し悔しい。戸蔦別への稜線

 1542から、青空を見上げながらの急登。空荷なので問題なく進める。雪も適度に固く、歩きやすい。尾根が広いので北側の雪崩斜面もトラバース不要だ。今日も朝日を背に浴びる。

 露出したハイマツの緑が近づき、ピパイロが穏やかな笑顔で迎えてくれた。西の空が曇っているが、気にもならない。67、北戸蔦、戸蔦を間近に望むピークで贅沢な朝食。風がないのは本当に落ち着く。

 穏やかなテン場から帰路も朝だけあって、雪は腐っていない。が、雲が消え、気温が上がってきた。汗を流しながらテントに戻る。

 こんな穏やかならいつまでも留まりたいが、所詮は人間住処は下界。撤収し、スノーシューで下山開始。下りは伏美の尾根を使う。

 いつしか空は白く曇っている。近道を使うつもりが、最後に林道脇のササ崖の上に出てしまう。針葉樹林の植林で見通しが悪くなっているのだ。それでも、1時間で車に届くのだから苦にもならない。一箇所だけ、クマらしき足跡が横切っていた。      ('02/4/6〜7)

 

写真上:妙敷からエサオマントッタベツ川 中上:ルベシベ朝景 

中下:ピパイロの朝 下:穏やかなテン場から


  • コースタイム: 
    4/6 車5:50-6:36580-7:118307:33-8:2211158:33-
    9:2214409:38-10:04尾根-10:36妙敷山11:00-12:17伏美岳
    4/7 伏美4:41-5:4515425:51-6:36ピパイロ6:58-7:301542-
    8:32伏美9:45-11:15林道11:36-12:40車

  • 印象: 雪は例年より半月早い。コースは全般に(特に妙敷・伏見間)歩きやすい。  

  • トイレ: 伏美岳避難小屋が最終。