まえがき 中国のビザがやっと下りた8/1、私はイスラマバードのツーリストキャンプ(外国人専用のキャンプサイト)を後にした。 ピンディのバスターミナル、ピールワダイの空気は淀み、むっとする。この国のバスは派手であることを義務づけられているのか、塗装から外装まですべて目が眩む。そんなバスが並ぶ様は一種壮観だ。当然、ここではクラクションも鳴らすことが是だ。 ここでも、パキスタン人はフレンドリーだ。意味がわからないのに、にこやかに声をかけてくる。悪人かどうかもわからないが、適当に相手をする。 ギルギットまでのバスは157ルピー(当時1ルピー=約6円)もした。ようやく切符を入手した直後に目にしたバスは、市内バスと変わらないオンボロだ。こんなバスに20時間、耐えられるだろうか。 景気付けに飲んだラッシーがやばかったのか、気分が悪くなる。幸先が悪い。席は後ろから3列目。シートは当然膝がつかえる。発車後まもなく、腰と尻がガタガタになる。 拷問のようなバス旅での唯一の癒しは車窓の風景。緑豊かで風の涼しい土地が続くと思ったら、今度は砂埃で一切前が見えない道を進む。 夕方、ヘアピンカーブを左右に登っていく途中、乗客のパキスタン人が窓から身を乗り出して戻している。もともと気分の優れない私は、ますます気持ちが悪くなる。 夜になると、山賊対策のためか2台一緒に走る。ひどい揺れに、疲労困憊だ。夜中2時頃、急にバスが止まる。まさか山賊か、と思ったら休憩だ。下りると月もなく、見事な星空。地べたに横たわると、暑くも寒くもなくて丁度いい。そのうち、パキスタン人達も横になる。こうして、空が白むまで、乗客は大地の上で仮眠を取った。 明るくなると、朝の祈りだ。メッカの方向を向いて、コーランを唱えながら礼拝している。朝の清冽な空気の中で見る祈りは、街中でスピーカーががなり立てるコーランとは対照的で、とても新鮮に見える。今まで何回も礼拝を見てきたが、この時感じた彼らの信仰心は忘れられない。 熱く、ぎらぎらする朝日を浴びると睡眠で蓄えた体力が一気にゼロに。バスは、乾いた岩肌に刻まれた深い渓谷に沿って進む。3回ものチェックポストは、緊迫した情勢の証か。ギルギットに到着したのは10時過ぎのことだった。 |