楽古岳〜広尾岳

歩きに歩いた最終日



 2/9
 暦の上では立春過ぎとは言え、+2℃は暖かすぎる。雪の上には気の早い虫が蠢いている。

 林道の積雪は、ゲート手前で除雪跡が消えてから一層深くなる。黙々と、はかどらない孤独なラッセルを続ける。柳橋を越えると、膝まで潜ってしまう。降りしきる湿雪が憎い。スノーブリッジは落ちていないだろうか。

 行く手に、雪の中を泳ぐ15cm位の白い小動物。オコジョか、と近づく間もなく視界から消えてしまった。

 下着をウールで固めてはいるが、この霙雪では体温低下が懸念される。今度は腹の赤いアカゲラが梢に止まった。当然なのだろうが、この季節でも生命の息遣いが感じられるのはうれしい。

 前回、下山に使った尾根へ取り付くべく渡渉点を探すが、スノーブリッジはことごとく落ち、懸念が現実のものとなっている。岩の上に積もった雪を踏み抜き、何度も流れに落ちそうになる。動物の足跡を信じて強引に渡るが、足許はもろくも崩れ、顔から対岸の雪に突っ込む。情けない格好で這いずり回って事なきを得たが、かなり消耗する。

 593尾根に辿り着くまで、辛抱強くジグを切る。造林道が斜面を横切っているが、雪崩が怖くてトラバースできない。

 やっとの思い出尾根に出る。が、季節はずれの腐れ雪はそう簡単に高度を稼がせてくれない。朝からの疲労も手伝って、足取りも重い。目標の850までは届かなかったが、東尾根750で幕。全身びしょ濡れで乾かすのが大変だ。

車(札楽古林道入口)6:20-7:01札楽古橋7:14-7:34ゲート-
11:12390渡渉11:26-12:37490-13:15593-14:25東尾根750

 2/10
 この日も-1℃と暖かい。曇りの予報を信じ、ゆっくり出発。程なく湿雪は止んだ。東尾根を振り返る

 1003まで、深雪の急登に苦しむ。東の空が明るくなってきたが、稜線は雪雲の中だ。1080位まで登ると、東尾根が晴れてきた。

 淡々と高度を稼ぐが、国境の風を恐れて1210で行動停止。雪洞を掘ってみるが、潅木が邪魔で十分な広さを取れない。結局隣に幕営。そうこうするうちに稜線が晴れ上がり、半日行程が悔やまれる。

 寒さは平年並みに戻るとのことだが、昨日と違って「ドライ」な今日は暖かさが違う。明日、風が弱ければ一気に1188辺りまで抜けたいものだが、夜になって風が強まってきた。

7508:25-9:501003-11:231210

写真:回復傾向

 2/11
 少し冬らしくなって、今朝は-11℃。白夜高曇りだが、雪になるかもしれない。とりあえず楽古まで行ってからその先を決めよう。

 アイゼンを効かせて立った楽古ピークの風は、何とか耐えられる。これなら南下できそうだ。畏れと喜びに痺れながら下る。

 1380付近の雪煙地帯を抜け、スノーシューに戻す。今度は西から雲が押し寄せる。視界がなくなると辛いので、1365まで急ぐ。横風が強いが、一定方向なので身の危険は感じない。

 1365に立つと、一旦悪くなりかけた空模様が持ち直し、薄日も射してきた。が、それも一時のこと。暗雲1269へ至る広い稜線を行くうちに、雪が強まってきた。

 もはや視界は100m以下で、漫然と東へ向かう。1269付近に数箇所岩稜帯があるが、スノーシューでも余裕で巻ける。

 1365まで緊張して飛ばしたせいか、空腹と疲労に襲われる。適地がなかったので、結局1188を越えた下り斜面に穴を掘る。最初は完全な風除けも、時間と共に風向きが変わって役に立たない。あたり一面ガスっていたが、暗くなると朧月と広尾の夜景が浮かび上がってきた。

12106:44-8:21楽古岳-9:191365-10:08120310:10-
11:43126911:52-12:551188-13:091100

写真上:不明な時間 下:広尾遠望(手前は1269)

 2/12 
 冬晴れの期待も虚しく、小雪模様だ。曇りのせいか、-11℃と今日も気温は高め。視界は昨日より利かない。994コルからの登りでは南西風に苦しめられる。この斜面はハイマツの頭が覗く位だから、常時風が通るのだろう。

 1221の東側では、さりげなく張り出した北面雪庇に近づき、肝を冷やす。目覚め1220の東、1205で尖った広尾のピークが雲間から覗き、南の稜線が朝陽を浴びて輝きだす。遂に神々の目覚めだ。彼方には、幌満湖の平和な白い平面が広がる。

 1186手前のコルには、この辺では珍しい南面雪庇。1186に立つと、白く磨き抜かれた雪稜がなだらかに伸びているのが見える。束の間の休息襟裳へ向かっているのはわかってはいるが、ここではまだ実感できない。

 国境に別れを告げ、広尾へ向かう。この間が、吹きっさらしで案外曲者だ。山頂直下のカンバ帯で一息ついて、烈風に煽られながらハイマツのピークに立つが、不思議と感動は湧かない。雪雲で群青色の太平洋もくすんで見える。歩いてきた楽古からの稜線もすっきり晴れない。長居は無用だ。

 広尾の下りが予想外に恐ろしい。カンバ帯の稜線強烈な横風の中、急峻な岩場を慎重に下る。1090で東支稜に入り、やっと気が楽になる。776から下は腐れ気味で嫌な感じ。うるさい位の赤布に沿って下るが、尾根末端からは膝まで潜る厳しいラッセル。だが、この時の苦難などほんの序の口だった。

 西広尾林道の雪は、このところの陽気でグサグサだ。粘着テープの上を歩いている気分で、全く進めない。林道の後に待つ道道歩きを考えると、今日中に車まで辿り着けるか不安になる。両足の痛みが強く、周囲を楽しむ余裕もない。しかし、どんなに面倒でも一歩一歩進むしかないのだ。

 いつしか、日が傾いてきた。夕方4時を過ぎ、雪も固くなってきた。四つの砂防ダムを過ぎ、林道入り口到着。今回初めて見る夕焼けに感謝。

 今度は道道987号線だが、除雪されていないのでこれまでと何ら変わりない。予想以上に急な峠道を喘ぐ。日はとっぷり暮れ、月明かりに照らされる。途中で野犬らしき鳴き声を聞き、途中で張る気もなくなった。

 下りも膝まで潜ってもどかしいが、足の痛みも忘れて一心に歩く。再び平野に出、楽古が月光に浮かび上がる。パンケ札楽古川出合のゲートを過ぎ、やっとのことで車が見えたのは下山してから7時間後のことだった。老人は不在。再会を果たせず無念だが、置き手紙を残して帰路につく。 

11006:42-7:581221-9:1211869:25-10:08広尾岳10:20-11:0977611:22-12:22西広尾林道12:37-13:37第一砂防ダム-15:00第二砂防ダム-16:44道道987出合16:57-19:10札楽古林道入口

写真上:国境南望 中:1186から振り返る 下:目覚めの悪い楽古岳
   
('03/2/9〜2/12)


  • 印象: 道道987号線は、茂寄幹線出合-パンケ札楽古川出合間が災害のため通行止め。茂寄幹線出合-札楽古川出合間は除雪されていない。509から776を経て頂上へ至る尾根(夏道)から見上げる広尾岳は、1231mとは思えない急峻さ。

  • トイレ: 野塚・広尾市街地が最終。