荒天で日程が短くなり、戸蔦別から行き先を変更を余儀なくされる。二泊でピリカを目指すべく、野塚トンネル出口に車を止める。曇天、気温は高く風はやや強そうだ。
トヨニまでは勝手知ったる道(支尾根)だ。今日の風は尾根の東から回りこんでくる。雪は気温の割には腐っておらず固めの残雪状態。膝下程度でスノーシューが正解だろう。
天候回復を信じて登り続ける。視界はまずまずで、空もやや明るくなるがトヨニはガスの中。稜線の風が心配だ。
国境までは眺めはないがさくさく登る。顔を出した途端、予想以上の強風にビビル。即座にアイゼン装着。予報では南東風だが、山の上ではやはりソガベツの谷筋から吹き上げる西風。
黄砂なのか、全ての雪が茶色い。茶色いエビの尻尾は古い油で揚げたみたいだ。横殴りの風をあしらいながら進む。
二月前よりも雪は締まっているが色合いがいただけない。南峰の谷には大きなデブリは見られないが、南斜面の雪は部分的に消え、春の様相だ。
予定よりも早く1251到着。南峰はすぐ手の届く所に見えているが、風が凄い。雪がめくり上げられては飛ばされている。しばし休息し、回復を待つ。
余り変化はないがピッケルに持ち替えて出発。「風の通り道」には閉口する。ここは斜面の両側とも雪が吹き飛ばされているが、歩いてその訳を実感する。四方八方からシャレにならない風が全身を包み、20kgのザックを下から持ち上げる。岩の露出した日高側を這うように通過する。1270付近まで登り返すが、さらに勢いを増す西風を前にこれ以上の前進を断念。二度は勝負できない。通り道を慎重に戻り、前回泊まった1251に幕営。
今日の風ではトヨニまでも無理だったか。ラジオをつけるとやはり黄砂だ。茶砂の方がふさわしい。体中の毛穴が埋まっているような感覚。
明日は回復を待って北進だ。
夜半から降り出した雪で暗かったせいか、珍しく寝坊する。ピリカまではとても届かない。朝で雪は止み、ガスも晴れてきた。基本的には悪くない空模様だが、黄色い悪魔は健在だ。
空荷を差し引いても今日の「通り道」はかなり楽だ。一定方向で強さも変わらない風は怖くない。南峰手前、1410付近のキレットは記憶にないが昨晩の雪が変についていて緊張する。
今回はしっかり南峰を踏んで北峰を目指す。但し、今日は1512がやっと霞んで見える程度。
日高最南端のカールは純白でデブリも見られず、美しい。この辺は小さい雪庇が出ているが、尾根は広く平坦で、ラッセルも楽だ。シュンベツ川から吹き上げる風も苦にはならない。
1432からの登り返しもさして急ではない。南峰と違って稜線も広く斜度も緩め。右手から樹林帯が近づくとあっさり到達。ピークはやや風を除けられ。設営も可能か。丁度撮影に適した曲がり具合のハイマツが立つ、日高らしからぬ広い頂きだ。
顕著な北東尾根の向こうは1438。国境は1500までしか見えない。その北は黄砂か雲か。クマの沢川の険しさも霞んで見えない。
カラスの鳴き声を聞きながらしばしピークで横になる。西から低い雲が流れてきた。ピリカは澄んだ空の下に、と言い訳を残して引き返す。鬼門の「通り道」が荒れては大変だ。
風は行きよりも強まるが、大きな崩れはない。一時的に白かった稜線はすっかり茶色に戻っている。テン場からの下山も考えたが、翌朝の晴天に微かな望みを抱き、停滞。
ハイテンションの日高吾郎を聴くうちに午後は過ぎていく。野塚・オムシャもぼんやり見えるが、朧太陽は昼だか夜だかわからない。深刻化する中国の環境問題が春山の風物詩になっては困る。
一日中白かった空は夕方にはガスで白む。明日の予報は芳しくない。
翌朝は吹雪。昨日下山すればよかった。視界は15m。ニ往復目だが、自分のトレースが頼りだ。支尾根に入れば楽勝だ。トヨニはガスの中だが、青空も覗く。気温は低く、靴の深さしか潜らない。腰をおろすとカラスが頭上で鳴く。まさか昨日のとは違うだろうが、慰めか、嘲りか。あとはスイスイ下山する。 ('02/3/22〜24)
写真上:水墨画の世界 下:南峰からの北望