真冬らしからぬ青空。天馬街道から見事なモルゲンロートが望まれ、気が急く。大荒れの年末に撤退したときとはモチベーションが違う。今日は登る気満々である。
野塚トンネル出口に車を止め、30mほど左股川沿いに下る。渡渉には何の問題もない。前回チェックしておいた支尾根に取り付く。
最初こそやや急だが、スノーシューで踏ん張れる。尾根筋地形が明瞭なのが有り難い。雪は年末よりも締まっている。季節風もほとんどない。早く純白の稜線に近づきたいのだが、なかなか進まない。
左手、野塚北尾根から太陽が覗く。800を越えるとやや斜度が緩くなり、汗も引いてくる。ラッセルは膝下位で、はまる場面は少ない。
880で762へと延びる尾根と合流。下降時にはどちらでも大差ないのだが、一応枝に赤布をつける。斜度はさらに緩くなり、行く手の右には険しい谷を刻むトヨニ南峰が鋭く聳え、左手は右股川源流部。
国境稜線が近くなるにつれ、樹氷が目立ってくる。眩しい青空と弱い風に感謝。ほぼ予想通り、取り付きから3時間半で国境に出る。
稜線上の西風も弱い。冬にこんな日があろうとは。トヨニが待ち遠しい。雪は支尾根よりも緩く、スノーシューでも時折踏み抜いてハイマツにはまる。十勝側への雪庇はまだ小さく、大きくて1m程度。見える範囲では雪崩跡もない。
視界は良好なので安心して潅木帯のきわを辿るが、ラッセルが案外曲者。
1162を越え、1251への登りでアイゼンに替えたのが完全に裏目に出て、腿まで埋まる羽目に。見た目ほどクラストしていなかった。這うように進み、1251着。
結構疲労しているが、この安定した天候を逃す訳には行かない。ここからピストンするか、南峰を越えて東尾根上で幕営するかの選択だ。この辺りは余り平坦ではないが、樹林が稜線まで達していて風は防げそうだ。何よりも荷物を担いで登る余裕がない。
時刻は1時20分。帰りを考え、80分で届かなければ戻ることに決める。アイゼン・ピッケルでピークを目指す。最初の岩場以外は雪に覆われ、やや締まっているので歩き易い。
後方を見ると、楽古に続いて十勝にも雲がかかってきた。こうなると、トヨニが隠れてしまうのも時間の問題か。標高差は250mもないが、近そうで遠い。風が弱いので本当に助かる。1400前後の斜面がややきついが、着実に標高を稼ぎ、快晴の1475(南峰南のコブ)に到着。
この先はやや細い吊り尾根状。ただし凍りついてはいない。南峰までは10分もかからなさそうだが、ここで満足。
北は南北のトヨニからピリカまでの稜線が神々しい。厳冬期の束の間の笑顔を垣間見た気がした。南方、野塚にも雲がかかっているが、幸い雲は高いようだ。
このコブでの10分間のために、この週末があるのだ、と一人納得して引き返す。待っていたかのようにトヨニには雲がかかり出す。
ゆっくり写真を撮りながら戻る途中、1251のわずかに西に白い「点」を発見する。戻って早々にカンバをかき分けると、太平洋を見渡せるわずかな空間。2人用テントの隅がはみ出す狭さに設営し終えた頃、気づくと斜面が西日に赤く染まっている。
樹氷の夕焼けがこんなに美しいとは・・・思いがけぬ感動に、しばし言葉を失う。
夜、トイレに起きるとキーンと冷え切った冬空に満点の星空。いつしか稜線は晴れ上がり、月明かりに照らされている。久々の稜線泊は、やはりいい。
翌早朝から風が強まり、一転して前日の穏やかさが嘘のような灰色の世界。低気圧接近の予報だ。吹雪いて身動きが取れなくならないうちにと、早々に往路を引き返す。雪温が低いせいか、アイゼンでもスムーズに進める。視界が今ひとつで、合流点が遠く感じられる。
支尾根に戻ってしまえば、あとは淡々と下げるだけだ。時間をかけて上った尾根を、何も考えずに下りきる。('02/1/26〜27)
写真上:樹氷 中上:南峰に延びる国境稜線
中下:遥かピリカヌプリ 下:夕映え