『HINT 〜呼吸と波長〜』
見張り台から落ちる夢を見て、ゾロは目を覚ました。
絨毯の上に、転がっているようだ。傍らには船のハンモックではなく、簡素な寝台。
「そうか・・・ユバの町に泊まったんだ・・・」
周囲には、高いびきの仲間たち。夜明けまでの、ひとときの安らぎに浸りながら。朝にはまた、アラバスタの砂漠の、過酷な行軍が始まるのだ。
だが、その面々の中に、サンジがいない。日頃の習慣からか、彼は皆より早く目覚め、外に出たものと見える。
そしてゾロも、もう一眠りする気にはなれなかった。そもそも、彼がいつも昼寝しているのは、夜に熟睡できないからだ。眠りが浅いからこそ、殺気を感じればすぐ飛び起きられる。戦いに生きる中で、身につけた体質だ。
(折角だから、朝飯の前に、ちょっと筋トレでもしておくか)
そんなことを思いつつ、ゾロは静かに廊下へ出た。
台所の外を通ったが、そこには人の気配はない。サンジはいないのか。もっともこの時間では、朝食の支度にもまだ早い。GM号では、日の出と共に起き出して支度を始めるコックだが、まだ夜は明けていないのだ。
(とすると・・・影練か、あいつ? 全く、こそこそする必要なんかねぇのによ)
ゾロだけが気づいているのだが、サンジは、戦闘のトレーニングを見られることを好まない。というより「訓練している」と思われること自体が嫌いらしかった。
『俺はコックだ、武道家じゃねえ』
口ではそう言いながら、並の武道家など寄せつけもしない戦闘力を発揮する、それを自分で「格好いい」と思っているふしがある。
しかし、どんな天才でも、本当に訓練もせずに強くなることは不可能だ。
種を明かせば、サンジはコックとしての日々の労働に、巧みにトレーニングを組み込んでいた。食材の運搬で足腰を、鍋やフライパンを扱いつつ腕力を。投げ上げた食材を空中で切り刻む「ちょっとした曲芸」は、動体視力と反射神経の訓練になる。
一仕事終え、海に向かって一服している時も、ぼんやりしているだけではない。以前ゾロが、偶然に見たその眼差しは、紛れもない戦士のそれで。前に、何を考えているのか尋ねてみたら、
『てめえをどうやって蹴り飛ばすか、いつもこうして考えてる』
と笑ってみせた。ただの悪態ではないと、ゾロは思ったのだ。どうやら、イメージトレーニングを習慣づけているのではないか。
・・・そう、何より、ゾロとの間で繰り返される喧嘩。訓練に見えない戦闘訓練、という訳だ。
それにしても、あの細い身体のどこから、あの破壊力が生まれるのか。ゾロは初めて見た時から、不思議に思っていた。純粋に、武術家としての興味だ。しかし・・・最初にそれを尋ねた時には、危うく蹴り殺されかけた。
『悪かったな細っこくて! その細っこい脚でてめえをオロしてやるよ、くたばりやがれ筋肉ダルマ!』
サンジの逆鱗に、思いっきり触れてしまったらしい。男としては華奢なその体格のことを、よりによってゾロが口に出したことが。
・・・何度かそんなことを繰り返した後に、不本意ながらナミの協力を仰いだ。彼女の『サンジ君の蹴り技って凄いわよねぇ、どんな秘訣があるの?』という甘い囁きに、一発でメロメロになったラブコックは、ゾロの盗み聞きにも気づかず語りに入った。
『えー、そもそもクソジ・・・赫足のゼフのパワーの秘密はですね、いわゆるクンフーの「発勁」というテクニックにあったんですよ。それと、気功法を武術に応用した「硬気功」の技と・・・そのエッセンスを、俺が受け継いだって訳で』
サンジの説明に、少し首をかしげたナミは、ゾロが隠れている方をうかがってから、猫なで声で問いかけた。
『あのねサンジ君、私、あんまり難しい武術用語って分からないの。今言った「発勁」とか「硬気功」って何なのか、分かりやすく教えてくれる?』
『はいはい分かりました、謙虚なナミさんも素敵だぁ。まず、硬気功ってのは・・・簡単に言えば、火事場の馬鹿力を、意識的に引き出して発揮するクンフーの秘術ですっ』
さすがアホコックだ、常に「火事場の馬鹿力」を百%近く引きずり出して闘ってる訳か・・・ゾロはそんなことを、少し痛々しい気分で思ったものだ。本当にいざという時のためだから「火事場の馬鹿力」なのだ。それを常に駆使しているというのは、ある意味、生命を削る行為なのではないか、と。
だが、あの「赫足のゼフ」の力を、体格的に劣るサンジが継承するには、その会得が唯一にして最良の手段だったと言える。
ゾロの感慨も知らず、サンジは話を続けた。
『グランドラインには硬気功の達人がいて、能力者でもないのに素手で鉄を打ち砕ける、なんてジジイが言ってましたよ。まあそのぐらい可能性を秘めた、神秘の技法な訳で・・・』
鉄を、素手で。
その言葉に、ゾロは息を呑んだ。そんなことが、本当に可能だとしたら。・・・自分にも、きっと出来るはず。いつかはこの刀で、鋼鉄を斬ることが。
『でもって、そうして引き出したパワーを、最大限の効果を上げつつ叩き込むテクニックが「発勁」なんです』
来た、ここがポイントだ。この発勁という技法は、おそらく剣にも応用可能なものだ。ゾロは聞き逃すまいと、耳をこらす。サンジの声にも、ひときわ熱が入っている。
『力を効率よく伝える体術と、それから、呼吸・・・』
そこで突然、別の声が割って入った。
『サンジー! メシー!』
・・・という訳で、ルフィの意図せぬ妨害により、肝心な所が聞けなかった。「力を効率よく伝える体術」など、ゾロにとっても、すでに身につけている部分ではないか。「呼吸」というのも、戦いの呼吸という意味なら、それなりに分かってはいるつもりだ。
おそらくは、あんな説明では伝えようもない秘術があるのだろう・・・と、ゾロは思う。だが、ナミの「続きが聞きたいなら、報酬は倍ね」との悪魔の微笑みに阻まれ、とうとう今まで聞けずにいた。
夜風の冷たさに、少し身を震わせた後、ゾロは外に出る。
(どこ行った、クソコック)
滅多に見られない・・・いや、サンジが見せようとしないその演武を、今日あたり覗き見できるかもしれない。そんなことを、密かに期待しながら、ゾロは廃墟の町を見回した。
月明かりを頼りに、町長はまだ、砂掘りを続けているらしい。だが、そっちには居ないような気がした。ゾロは、反対側へ向かって歩き出す。
じきに、街の外縁部に出た。かつては、砂岩を積んだ壁だったらしい、地面に崩れた岩の列。そこで、ゾロの耳は小さな物音を捕らえた。何かを、繰り返し叩いているような。辛うじて残っている岩壁の向こうから、その音は聞こえる。
冷えた夜風が運んでくる、煙草の匂い。壁を回り込むと、急に視界が広がる。砂漠の地平線を背景に、口元に小さな火を灯して、サンジがいた。
「おい、何やってる?」
ゾロが声をかけると、足元の岩を蹴っていた動きを止め、サンジは振り向く。
「ん? 珍しいじゃねえか、てめえがこんなに早起きするとは」
「悪いか、目が冴えちまってよ。お前もそんなもんだろ」
「まあな。蓄音機でもありゃ、踊りたかったけどよ・・・生憎、そんな気の利いたもんは無ぇらしいし」
時々こっそりやっている演武のことを、サンジは「踊り」だと言い張っている。ご丁寧に、そういう時には蓄音機のBGMも欠かさない。
それにも一理あって、ゼフの足技は元々、どこかの民族舞踊であったという。確かカポエラとか言ったか。その中に、海をさすらう間に出会った様々な格闘技、それこそクンフーの秘術などを取り込んで、ひとつの新たな体系が完成され、サンジに受け継がれた。
彼の細い身体、すらりと伸びた手足が繰り出す技の華麗さは、時に「赫足」の血塗られたイメージを越え、舞踊としてのルーツを浮き上がらせる。戦う肉体の生々しい呼吸を、沸き上がるリズムに昇華させたサンジの闘技。
武術とは、人を傷つけ殺すための技。そう分かっていながら、本当に強く美しい技だと思わせる使い手に、ゾロはこれまで二人出会った。くいなと、ミホーク。そして三人目がサンジだ。
同じ剣士ではなく、目標にしてライバル、という焦り感がない分、先の二人より余裕をもって、ゾロはその技を見つめられる。武器のひとつも持たない人のからだが、これほど猛々しく、これほど美しく動きうることを、サンジに出会って初めて知った。
「で・・・今のは一体、何の稽古だったんだ?」
改めて、サンジが蹴りつけていた小さな岩に視線を落とし、ゾロは尋ねた。足元の砂から顔を出すそれを、彼はさっきから、繰り返し蹴り続けていたらしい。
問いには答えず、サンジはその岩を指さした。
「ああ。こいつを、軽く踏んでみろ」
何か、含むところがある眼だ。
「・・・何してる、ただの岩だぜ。種も仕掛けもねえ」
そこまで言われて、退く訳にもいかない。ゾロは少しむっとしつつ、慎重に岩を踏みつけてみる。
が、何も起こらない。体重をかけても、少し強く蹴ってみても、それは揺らぎもしなかった。長方形の岩が、縦になって砂に埋まり、一部だけが見えているものらしい。
「で? これが、どうしたっていうんだ?」
ゾロの問いに、サンジは薄く笑うと、靴先でそれを蹴りだした。何度も繰り返される、軽い打撃音。いぶかしげに眺めるゾロの前で、その作業は一分ほど続いたろうか。サンジは、岩に落としていた視線を上げると、再び言う。
「もっかい、この岩を踏んでみな」
「何のつもりだよ」
ゾロは再び、岩に足をかける。と・・・予期しない感触と共に、それが突然崩れた。体重を乗せていたため、よろめきかけたゾロの足元で、岩はぼろぼろに砕け、砂利に還る。
「お、おい。こいつは、一体どういう手品だ」
してやったり、という表情のサンジに、ゾロはしゃくに思いつつも、聞かずにはいられなかった。さっきまで、頑丈な岩だったものを、あの程度の蹴りを繰り返すだけで崩すなんて。
新しい煙草に火をつけながら、サンジは生意気な、しかしどこか少年めいた顔で微笑み、そして話し出す。
「物体の持つ、固有振動数が・・・なんて言っても、てめえの頭じゃ分かんねえだろうから、簡単に説明するぜ。早い話が、全ての物体には、その弱点となる『波長』がある。その波長の衝撃を与えてやれば、理論的には、どんな物でも破壊できるんだ」
「どんな物でも? 本当かよ?」
「だから、理論上は、って言ってんじゃねえか」
ゾロの突っ込みを軽くいなして、サンジは言葉を継いだ。
「最新の学説・・・というか、実はまだ仮説段階なんだけどな、結構当たってるみてえだ。バラティエのクソジジイの経験でも、物によって『壊れやすい波長』ってのは違うってさ。グランドラインで出会ったクンフーマスターは、実際にそういう波動を感じ取れるって言ってたってよ」
肉体を武器とする拳法家たちは、打撃を繰り出す度、その衝撃が生み出す波動を感じている。長い歴史の中、その経験と感覚は、秘術の域まで高められていったのだろう。
「そのマスターが、クソジジイに教えた訓練方法が、こうして岩を崩すことなのさ。繰り返してるうちに、岩の波長は読めるようになるはずだ、ってな。ジジイは片足を失くしちまって、その先の修行は出来なかったんだが・・・」
物の波長を読む。これまでゾロが聞けなかったその秘技について、サンジは、拍子抜けするほどあっさりと口にした。
「お前はどうなんだ? 岩の波長とやらは、感じられるのか?」
「取りあえず、アラバスタの砂岩ならOKだな。適度に脆くて均質だから、やりやすいんだ。こいつを砕けるリズムなら、もう完璧に会得したぜ」
あっさり言う彼だが、そのささやかなマジックが、どれほどの鍛錬と技術の成果なのか。武を志す者として、ゾロにはそれが分かる。
サンジの与える蹴り・・・その振動の波長に応え、見えざる結合の手を解いて、砂に還ってゆく岩。そのイメージは、ゾロの中に強烈に焼きついた。
何かのヒントに、なりそうな気がした。
「全ての物に、波長だのリズムだのがあるんなら・・・人間もそうなのか?」
ふと思いついて、ゾロは尋ねる。
「馬っ鹿だなぁ、てめえ。脈拍だって、呼吸だってそうじゃねえか」
サンジは、煙を吐きつつ即答する。それこそ生き物は、その「リズム」が止まれば死ぬんだよ、と。だが、ゾロは答えの後半は聞いていなかった。
「脈拍も、呼吸も、か・・・」
この言葉が、妙に引っかかったのだ。強力なヒントはもう得ている、何かが分かりそうだ、なのに答えが出ない。さらなる高みへの回答はどこに。
(それが分かったら、てめえのその技なんかすぐ追い抜いてやるよ、クソコック。俺はもっともっと強くなってやる)
ゾロは密かに思う。サンジは、知っているのだ。自分の限界を破ろうと、ゾロがどれだけ努力してきたか。
そうでなければ・・・うっかり寝過ごしてトレーニングし損ねる前に叩き起こすとか、筋トレが過負荷になる前に喧嘩を売って止めさせるとか(チョッパーのおかげで分かった。この船医が『それ以上は逆効果だ!』とドクターストップをかけるタイミングと、いつもサンジが邪魔をするタイミングは、見事に一致した)、何より、強い肉体を育てるための完璧なメニューを作ってくれるとか、そんな気遣いが出来るだろうか。
気に食わないと思っていたはずのこの男に、いつの間にか、生命線を握られてしまっていた。そんな一種の気恥ずかしさが、ゾロにはある。なのに・・・その感覚は、決して不愉快なだけではないのだ。
考え込んでいる間に、ゾロの目の前から、いつの間にかサンジが消えていた。慌てて見回すと、少し離れた所で、遠く砂漠の地平線を眺めている。
その背中を見つめるゾロを、意識しているのかいないのか。半ば独り言のように、サンジは呟く。
「もし、全ての物の波長を感じ取れたら・・・すげぇんだろうな。そんなことがもし出来たら、世界が巨大なオーケストラみたいに思えるんだぜ、きっと」
「巨大な、オーケストラ?」
戸惑って聞き返すゾロの前で、サンジは星空を見上げながら、世界を抱きしめるように両手を広げた。
「ああ。あらゆる物が、それぞれ独特の波動を出してて、互いに響き合ってさ・・・本当はたった今も、世界はそのシンフォニーを響かせてるんだ。人には、聞こえねえだけで」
「・・・・・・」
強さばかり求めている自分の傍らで、そんな風に、この世界を見ているのか・・・・と、ゾロは思わずにいられない。
自分にはとても分からない、微妙な味覚の「ハーモニー」を感じ取れるサンジなら、いつかは世界の奏でる音色を聞くかもれない。斬るためではなく、愛するために世界を感じるこの男なら。
どこか羨望めいた、そんな思いがつい、ゾロにきつい台詞を吐かせてしまう。
「けっ、言ってろ。この国は大変なことになってるのに、よくもまあ、そんな三文詩人みてえな台詞が吐けるよな」
だがサンジは、挑発に乗ってこない。左目を隠す前髪の下、口元だけで皮肉に笑う。
「三文詩人、大いに結構。風情を知らねえクソ剣士よりはな」
どうやら「戦闘訓練」よりも、今日の行軍のための体力温存を選択したらしい。そしてそれは、ゾロも同じだった。
喧嘩にならなかったのを幸い、さきほど少し気にかかっていたことを、ゾロは尋ねる。
「それより、さっき言ったそのクンフーマスターって・・・グランドラインに、鉄を砕ける達人がいるって聞いたけどよ、そいつのことなのか?」
「よく知らねえが、多分な。それがどうかしたか?」
「素手で鉄を砕けるなら・・・刀で鉄を斬ることも、出来るよな」
振り向いて答えたサンジに、ゾロは静かに言った。問いではなかった。が、実現すべき未来と言うには、声ににじむ焦燥が隠せなかった。
「昔、師匠に聞いたことがある。鉄でも斬れる剣士がいるってよ。俺も早く、そんな境地にたどり着きてえ」
「鉄を? お前、いつか鉄の鎖を斬ってなかったか?」
サンジが首をかしげる。千年竜とロストアイランドを巡る冒険の際だ。鎖で繋ぎ合わせた軍艦に取り囲まれ、あわやという事態になって。あの時はサンジも、ゾロと肩を並べて敵船へ乗り込んだのだ、忘れているはずもない。
「・・・鉄じゃなかったんだ、あれは。後でウソップが、破片を調べて、粗悪品の合金だって言ってた」
それが判明した日、ゾロは徹夜でヤケ酒を飲んだ。
一瞬、同情と「ざまあ見ろ」の感情が入り交じった、複雑な顔をするサンジ。しかし、思い当たったように再び問うてくる。
「じゃあ、砲弾を斬ったってのは? そいつも粗悪品か?」
それはまた別の折、海軍との小競り合いで、撃ち込まれた砲弾を真っ二つにした時だ。サンジは直接見ていないのだが、その場にいたルフィとウソップが、べらべら喋ってしまったらしい。
ゾロは、さらに苦い顔になる。だが、基本的に嘘のつけない性格だった。
「あ、あれは・・・実はな、弾いて逸らすつもりだったんだよ」
サンジは、ゾロの表情をしげしげと見た後、不意に口元を歪めた。
「てめえ、ひょっとして・・・鷹の目の真似をしようとしたなぁ?」
「うるせえ!」
図星である。
「とにかく、あの時はちょっとばかり、目測を誤ってよ。弾くつもりが、正面から刃に当たっちまった・・・しまったと思う間もなく、真っ二つになった砲弾が後ろへ飛んでった」
「つまり・・・弾速とか、刀に当たった角度とかが、万に一つの偶然で『斬れる呼吸』に当てはまったってことかぁ」
サンジは、半ば呆れたように言う。
「普通死んでるぜ、そりゃ・・・ほとんど奇跡だな」
「そう、奇跡だ。でもな、その奇跡を必然にできなけりゃ、世界最強なんて目指せねぇんだよ!」 今度こそ、これだけは迷いなく、ゾロは言い切る。最強のあの男を超えるには、普通ではいられない。奇跡を当然のように引き起こす所まで、技を磨き上げ、高めねばならないのだ。
「そうかぁ・・・・じゃあ差し当たり、クソ剣士様の次の目標は、鉄を斬ること、ってか」
小さく呟くと、サンジはぷいと横を向く。近くにあった岩を、さきほどよりはやや強く、リズミカルに蹴り始める。彼が動きを止め、足をとんと地面につくと同時に、その岩が崩れた。壊されたのではなく、自ら望んで崩壊したかのように。
そして、あさっての方角に向かい、サンジは白々しく言う。
「この国のことがケリついたら、俺、今度はこいつを鉄で試してみようかなぁ?」
「・・・・おい」
「鉄の波長、案外楽に感じ取れるかもしれねえ。なんか俺、そんな気がしてきたぜ」
「・・・・てめえ、喧嘩売ってんのか」
「喧嘩じゃねえよ、競争だ」
にやりと笑って振り向くと、サンジはすっと間合いを詰め、一瞬でゾロの側に立っていた。そして煽るように、耳元でそっと囁く。
「ぐずぐずしてっと、お前が鉄を斬る前に、俺が鉄をぶち割れるようになっちまうぜ? 世界一の剣豪を目指すって奴が、コックごときに負けてていいのかよ?」
「何だと! てめえなんかに負けやしねえよ!」
ゾロはその眼を正面からにらみ返し、サンジの挑戦を受けた。
武道家ではないと自称する彼よりも、世界一を目指す自分は、常に強くなければならないと。改めて、そう心に誓いながら。秘術を明かしてまで挑発してきたこいつに、決して負けられはしない、と。
その密かな誓いに、サンジは愉快げに応える。
「そうそう、その意気。悔しかったら、とっとと鉄をぶった斬ってみろ。奇跡を必然にしてみせやがれ、クソ野郎!」
Fin.
I.I.S.CEREMONY投稿作品。
DLFです。こんな訳わからんので良ければ持ってってやって下さい(^^;
(その際は、事後でいいので御連絡を)
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