『二本の武器とその配置』 「全く、下らねえ喧嘩で刀抜くなってんだよ。思わずこんなもん使っちまったじゃねえか」 自分をすっかり棚に上げつつ、サンジはフライパンを、壁のフックに掛け直す。それから、先割れスプーンを巨大にしたような形の、サーバーフォークもその近くに掛けた。 ゾロが喧嘩で刀を抜いた場合、とっさに応戦するのに、サンジはしばしばこの二つを使う。手元のキッチン用品の中では、頑丈に出来ているからだ。 (けど、武器でもねぇこんなもん持ち出すのは、本気の戦いじゃねぇからだぜ。マジでやるなら、足技だけで行ってる。俺の本当の武器は、この二本の脚なんだからな) そんなことを思いながら、サンジはおやつの準備を始めた。 ウソップに文句を言われつつ、喧嘩で壊れた甲板の修理をしていたゾロ。一段落した後、トレーニングに戻ろうとして、手のひらにとげが刺さっているのに気がついた。 ちょうど、ダンベルを握ると食い込んでしまうあたりで、どうも気分が悪い。爪で引っかいてみてもうまく取れない。 間の悪いことに、こういう時に頼るべきチョッパーは、上陸したルフィについて行ってしまっていた。 (しゃあねぇ、クソコックに頼んでみるか) 今日の昼前、サンジが大きな毛抜きのようなものを使い、魚の小骨を抜いているのを見た。あれを借りられないだろうか? そう思い、ゾロはキッチンに向かう。ドアを開けると、サンジはテーブルにもたれ、一服している所だった。 「何だ、酒かよ?」 「いいや、その・・・」 中に入ったゾロは、調理台に歩み寄り、見回す。丁度、例の「巨大毛抜き」は、フライパンとサーバーフォークの間のフックに掛けられていた。だがサンジは、勝手に調理器具に触られることを嫌う。ちゃんと許可は取らなければ。 「何だよ、おい?」 「ああ、つまり、その・・・」 ゾロは、目的の物の名称を知らなかったのだ。だが「でっかい毛抜き」とか言ってしまったら、また馬鹿にされるに決まっている。 「はっきり言えよ、何だってんだ?」 サンジの機嫌は、少し斜めになりかけている。その時、ゾロはふと気づいた。目的のそれの両側に掛けられているのは、サンジが喧嘩の時、よく武器代わりにしている物だ。そうか、と少しほっとしつつ、ゾロは尋ねる。 「なあ・・・てめえの、二本の武器の間にぶら下がってるもん、ちょっと触らしてくれねえか」 ・・・サンジは、一瞬ぽかんと口を開けた。そして次の瞬間。 「真っ昼間から盛ってんじゃねぇよクソ馬鹿野郎ーっ!」 手加減なしのコリエシュートが、ゾロに炸裂した。 |