Anne Munoz Furlong
来日記念講演に参加して

No.870156大橋卓代

Welcome to Japan!!
 2003年2月15日、順天堂大学公衆衛生学教室主催によるAnne Munoz Furlongの来日記念講演が行なわれた。  Anne Munoz Furlong(以下、Anne)は、アメリカにおける食物アレルギー・アナフィラキシーの患者団体の FAAN(The Food Allergy & Anaphylaxis Network)の代表である。FAANの母体は、1991年にAnneの娘が幼児期 に牛乳と卵のアレルギーであることが判明した時に立ち上げたFAN(Food Allergy Network)である。活動の中 で、アナフィラキシーの問題が顕在化してくるにつれ、名称にもアナフィラキシーを加え、その方面の研究も 活発化させてきている。
 筆者は、1995年渡米時にFANのメンバーとなった。秋に東京で行なわれた食物アレルギーの子を持つ親の会 会員であった桶矢洸(ひろい)君の追悼(同年6月4目、食物アナフィラキシーによって逝去)記念講演会に、 FANの活動、アナフィラキシーショックに対応するEpi-Penの普及をファックスにて紹介した。「早く日本にも このような食物アレルギーのネットワークができあがり、、Epi-Penが普及し、アナフィラキシーで命を落とす 子が二度と出ないように」と祈ったことがある。
 1996年4月には、メリーランド州ボルチモアで行なわれたFANの会議にも出席し、その組織化されたFANの活動、 講演の内容、食物アレルギーを考慮したバイキングランチなど大いに刺激を受け、ますますAnneのエネルギッシュ な活動振りに敬服し、その素晴らしさの虜になっていた。
 今回、親の会の代表である武内澄子さんの永年のご尽カ、働きかけが実を結んで、食品表示との関連で、 ついに食物アレルギー団体の世界のリーダーであるAnneの来日記念講演が実現した。しかも、いつも隣りで サポートしてくれるハズバンドと一緒に。
 Welcome to Japan!!ようこそ、日本へ!日本の食物アレルギー患者はあなたの来日を待っていました。 あなたの今までの活動を日本の患者、医療者、食品メーカー、行政機関の各位へ伝え、それぞれに“風穴” を開けてください。

米国では、年間200人(推計)がアナフィラキシーで死亡
 今回の報告の中で、参加者が驚いたことの一番は、アメリカにおけるアナフィラキシーによる死亡者数の多さ (推計年間200人)であった。日本とアメリカとの人口比(1:2.2)から単純計算すると、日本でも95人もの人が アナフィラキシーで生命を奪われかねないことになる。聴衆の間の反応は「いくらアメリカでもそこまで多くは ないだろう」「日本でもそれほど多くはならないだろう」という雰囲気が感じ取れた。実際、講演の後の質疑応答 の時に「推計死亡者200人という数字は、アメリカ国内だけなのか、カナダやメキシコも含む北米なのか」という 疑問視する質問が出た。それに対して、Anneははっきりと「アメリカ国内だけで200人と推計できる」「ミネソタ のあるコミュニティで5年間統計を取りつづけ、その数からアメリカ全体でのアナフィラキシーによる死亡者数の 推計を出した」と答えた。また「アナフィラキシーショックで年間、33,000人が救急外来を訪れている」とも付け 加えた。
 アナフィラキシーの場合、その病歴から、明らかにアレルゲンとなる食べ物を食べたという事実が判明しない限り、 何か理由はわからないが、急激な症状(ジンマシン、呼吸困難、嘔吐、血圧低下etc.,)が出て、生命を落としたという ことになり、死因として「食物アナフィラキシー」と限定できないことが多いという現実がある。
 アナフィラキシーによる死亡者数の多少が問題なのではなく、「急激な変化」「原因が特定できにくい」という食物 アナフィラキシー症状の特異的部分が実数を把握しにくくしているという実際こそ、患者以外の聴衆に注目してほしい ことだったのだが、、、。

アナフィラキシーによる死亡の54%は10代
 パワーポイントを使いながらヴィジュアルに訴えるように話を進めて行くAnneが示した、一つのグラフに聴衆にどよめき が広がった。死亡例32例の分析をする中で、年代別グラフを作ると、飛びぬけて高い棒、それが10代であったからだ。Anneは、 母親の立場で、母親の感覚で説明した。“10代の子どもたちは「世界中の何もかも知っている」と言って、親の言うことを聞 かない”しかし、10代だからこそ好きな子とキスをするとき、相手の子が自分にとってアレルゲンとなるものを食べた後か どうか、が問題となってくるが、それは親が注意したところで聞かない。医者や心理療法士などの医療従事者を交えた10代だけ のミーティングを親が会合を持つときにセッティングするようにしている”ということであった。そして、小さい子にはkidsweb (http://www.fankids.org)を、10代にはteenwebを設置しているので (http://www.fanteen.org)そちらを是非訪ねてくださいということであった。
 私見であるが、日本の子どもたちが気軽にチャットするには言語の壁(英語)があるかもしれない。しかし、万国共通の 同じ病気、同じ気持であるのは確かである。是非、親であってもwebを訪ねるのも良いかもしれない。何より、日本でそれを 作る必要がある。

Epi-Penの救急車配備はほぼ完了。
 FANは、Dr.Hugh Sampsonとともに患者個人がショックを起こしたときに対応できるように、アナフィラキシー発症の メカニズムを理解し、自分で携帯のエピネフィリン(Epi-Pen)を使えるようなビデオを作成し、その啓蒙活動を行ってきた。 それと同時に救急車にもエピネフィリンを搭載させ、救急車で病院へ運ぶまでに注射ができるように運動していたが、 それが100%達成したという。ショックが起きてから20分以内にエピネフィリンを使わなければ、致命的なことになるという データに墓づき、徹底させてきたのだが、現在の日本の救急医療を考えた時、厳然たる大きな差を思い知らされた。

食物アレルギーの90%が8種類の食べ物に反応を示す。
 アメリカでは全人口の2〜2.5%の人=6〜700万人が何らかの食物アレルギーがあるとされる。また全人口の1%(300万人) がピーナッツアレルギーである。食物アレルギーの患者の90%は、・ミルク・ピーナッツ・卵・木の実(アーモンド、くるみ、 クリ、ピスタチオなど)・大豆・小麦・魚・甲殻類などの8種類に主に反応を示す。
 そこには、食生活習憤の違いと人種によるアレルギー反応の示し方の違いなど注目すべきことがある。日本のように魚を 食する習憤を持つ場合、魚という大きなグルーピングは存在せず、個々の魚の種類によるアレルギー反応の差が出て来る。 しかし、アメリカではスーパーに並ぶ魚の種類が限られており、どこのスーパーでも入手可能なのは冷凍のタラとマグロ、 サケの切り身くらいのものである。同様にShelfish(魚介類、甲殻類)というようなグルーピングで、エビもカニも貝も、 ひと括りでまとめられるのもアメリカ的である。日本と比べると極端に魚を食べる習慣が少ないし、家の中で調理することを 嫌う人も多い。また、ピーナッツが多い理由の背景には、お昼のスナックといえばたっぷり塗ったピーナッツバターサンド イッチが定番というお国柄もある。
 FANの活動として、「密室内でのピーナッツの事故の心配」を航空会社へ訴え(Wallstreet Journalへの読者からの投稿が あった)、前3列をピーナッツフリーシートにしただけでなく、アメリカ国内線の機内スナックで配られていたピーナッツが 消え、プレッツエルに代った。ピーナッツの小袋を一斉に機内で開ける時に飛び散る粉状の空気がピーナッツに過敏な人には きっと耐えられないことだったにちがいない。アレルギー物質のそれぞれの単品としての食品の影には、国による生活習慣の 違いがある。

米国内のラベリング(食品表示)における、患者のための改良
【例1】1992年、Kellogの商品を食べた会員の中から問い合わせが相次いだ。検証の結果、“Natural Flavor”という香料 の中にバターが使われており、ミルクアレルギーを持つ会員がアレルギー症状を起こしたということが判った。その結果、 今は改善された。

【例2】Hersheyのチョコレートのパッケージの表面にwith Almonds(アーモンドが入っています)の表示が成されるようになり、 ピーナッツやその他のナッツにもアレルギー反応を起こす人に、ひと目でわかるようになった。

【例3】ハンバーガーヘルパーには、“食物アレルギーの消費者の方は、内容表示をよく読んでください”とか“小麦とミルク を含んでいます”という表示が成されるようになった。

※情報をシェアしていくことが大切!!

米国内のラベリング(食品表示)の残された問題
 アメリカでは表示の義務上、全成分の表示は成さなければならないことになっている。しかし、例外的にある一定の香料や スパイス、またなんら食品それ自体に機能的昼効果をもたらさない位の最小レベルの物賢は表示しなくてもよいことになって いる。そこで、それらの例外に関しても全面的な表示をFAANは求めて行っている。
 また、食品に、アレルギー反応を起こしかねない物質が製造工程で混入しているかもしれない(その製品を作る前に同じ道具 ・器具、同じルート・機械で作られた製品にアレルゲン物質を使っていたために残留しているかもしれない)という理由から、 “maycontain”(含まれているかもしれない)の表記が増えている。2000年のFAANの会議で、食物アレルギーのある子の親に 調査したところ、“may contain”の表記がある場合、92%の人が買わないと答えている。どんな食品にでも“may contain” 表記がなされると、買える商品(食べることのできる商品)でさえも、買えなくなってしまう。“may contain”を隠れ蓑に するのではなく、食品工場には、含んでいる疑いのある物質は製造に再利用しない、製造スケジュールを変えるなどの企業 努力をしてもらい、“may contain”を最小減にする法律化をはかりたいとしている。
 食品メーカーにだけ要求するのではなく、それと同時に、FAANはロビー活動をし、法律化の働きかけもしている。社会構造 が違うとは言え、FAANの組織化された活動には脱帽である。

Education,education,education
 (教育、教育、教育−患者へ、学校へ、食品業界へ、政府機関ヘ)
 Anneは、食物アレルギーの理解に何が必要かというと、「教育、教育、教育」と答える。まずは、患者が、親が食物 アレルギーとは何かを理解し、食品のラベルを読む訓練をする。それを、今度は身近な友人へ、学校の先生へと「教育」 の輪を広げていく。学校では「ランチの前に手を洗うだけじゃなくって、ランチの後にも、口についたものの汚れを取って、 そして手も洗って。アレルギーの子はそれがついたら困るから」と同じクラスの子たちへ易しく伝えることが必要という。 そして、食物アレルギーの実態を食品メーカーに伝えることでもあり、その産業界の集まりに出かけて行き、担当のトップに 説明=「教育」する。そのトップがまたAnneが教えたように、現場の作業にあたる人にまで周知徹底するように「教育」 していく。政府に対しても、アレルギーの臨床的実態を患者と医療者が一緒になって訴えていき(=「教育」)、理解して もらう、というのだ。誰に対しても、周りのどんな組織、機関に対しても、理解してもらうための「教育」、それこそが必要 なのだと繰り返していた。

パートナーシップの必要性
 Anneが「教育」の次に、あるいは同レベルの必要性を持って訴えているのは、パートナーシップである。平等互恵関係の 構築である。この背景には、アメリカという国が主張する訴訟社会であるということがある。例えば、食物アレルギーの 患者と食品メーカーとの関係にあって、それは「アレルギー物質が混入していて知らされていなかったために事故を起こし、 生命を脅かされた」と製造者責任法のもとに訴えることもできる。しかし、Anneは、それを対立関係に置かないようにしようと 懸命である。もし、生産工程で、表示以外の物質が含まれた場合には、できる限りすみやかにUrgent Alert News (緊急注意情報)を流し、リコール(商品回収)を進めるといった、お互いの利益を考えたパート才一シップを築こうという のである。実際、会員として登録している私のところには、emailですぐに情報が送られて来る。Emailが普及する数年前 まではpriority mail 速達扱いであった。その会員への郵便料金を支払う方が、先に述べた訴訟を起こされて賠償を払うよりも、 企業イメージをあげ、良い消費者との良い関係が築けるという企業の利益にもかなっている。
 行政府、医療研究機関、各方面とのパートナーシップを築く時、そこには上下関係は存在せず、同等のパートナーとして、 相互における恩恵を考えるという発想は、日本が多いに学ばなければならないものであると思う。
 Anneは“By working together,we can save lives”(共に働くことによって、私たちは命を守ることができる)と言った。 共同することが無ければ、命を守ることはできない。

アレルギー解明のカギはSciense
 食物アレルギーを正しく理解する、生命に関わる病気として広く理解してもらうために必要なのはscienceであるというのが Anneの主張である。FAANには医学的アドヴァイスを行う委員会メンバーが12人おり、また2人の医学的分野からの編集委員がいる。 食物アレルギー、アナフィラキシーに関する医学、製薬などの最新研究の進捗状況がニュースレターに掲載される。 最近で言えば、「抗Ige療法として、TNX-901が2006年に入手できるようになるだろう」とか「ピーナッツアレルギーに対する ワクチンは現段階ではマウスモデルの実験にすぎない」などのニュースがそれぞれの権威の立場から出ている。
 アナフィラキシーで亡くなられた方の家族にその状況を仔細に、根掘り葉掘り聞くのは日本人的感情からすれば、 あまり好ましいことではないかもしれない。しかし、Anneはメンバーが関係した32の死亡例に関して、理解してもらう方法を とりながら「科学的に分析していく」という方法をとっている(詳しくは“Journal of Cinical Allergy”2001,Januaryを参照)。「残念ながらこの例はさらにそれから10例増えた」という。
 「解明のカギはサイエンス」−ひとりの患者、親であっても、科学的に分析する方法、科学的に状況を読み取る必要性を 感じる。

世界的連帯−FAAAへと発展
 FAANは、1999年、アメリカ国内での活動に止まらず、世界的な食物アレルギーの 団体の提携が必要であると考え、FAAA(Food Allergy & Anaphylaxis Alliance) を創設した。現在、加入しているのは、アメリカのFAAAの他には、 イギリス(The Anaphylaxis Campaign)、 オーストラリア(Food anaphylactic children Training & support Association)、 オランダ(Neder1ands Anafylaxis Network)、 カナダ(Anaphylaxis Canada)、 ニュージーランド(Allergy New Zealand)、 フレンチカナダ(Association Quebecoise des Allergies Alimentaires)であるという。 日本の参加も歓迎するということであった。

We're all in this together!!
 You are not alone.
 FAANでは、年に6回、ニュースレターを発行している。時には、16歳の少年がミ ルクアレルギーによるアナフィラキシーで亡くなった話やホームメードと聞いて友達 からもらったクッキーにピーナッツが入っていたために、アナフィラキシーで亡くなっ た女子高生の話もレポートされる。しかし、そのぺージには、忘れずに、“We are all in this together!”“You are not alone.”(私たちはいつも一緒よ、あなたはひとりぼ っちなんかじゃない)という言葉がAnneのサインと一緒に添えられている。 講演の後に、「いつもニュースに出ているあの言葉が大好き」と伝えると、Anneも「私 も好きなのよ」と答えてくれた。患者であり、またその親である私たちが共有したいのは、 まさに「皆一緒、私だけが悩んでいるのではなく、一緒に力を合わせて向かい合っていこ う」という感情であることを抱き合ったAnneのぬくもりに思った。


今後の課題
−日米の食物アレルギーを取り巻く環境の違いから見えてきたこと−

  1. FAAA参加にあたって、日本国内のネットワークつくり
     食物アレルギーの解明のために世界的に連携していこうという構想に、日本が参加す るにはFAANのような患者主体の組織化されたグループで、医療、化学、薬学、法律な どの分野からの強力な賛同者が必要となってくる。情報交換にあたっては、共通言語で ある英語のエキスパートも必要となってくる。FAAAのLINKになるにはHPの English版も必要。
     国内ネットが整備されれば、日本においても「緊急食品情報」が各地の食物アレルギー 団体へ、厚生労働省や企業から流されることも可能となるかもしれない。

  2. 患者を中心においた、医療従事者・研究者・食品メーカー・産業界・行政機関の連携グループの構築
     今まで、患者団体という域を出られない状況にあった。しかし、「命を守る」という観 点で繋がる大きな大きな傘のような、共同グループが構築される必要がある。民が中心と なる民・産・富・学研究母体が動き出すことを期待している。

  3. NPOグループの日米における取り扱いの違い
     日本における食物アレルギーの患者団体は、自然発生的に小さなコミュニティーから 大きくなってきている(例えば、この食物アレルギーの子を持つ親の会でも、最初は東京 医科大学の小児科外来患者の集まりから発生した)。一方、アメリカにおけるself-help group(自助グループ)は立ち上げの時から、NPOのひとつとして登録、認定され(例え ば、このFAANはnonprofit501(c)3非営利団体として法的に認められている)、こ のグループへの寄付は、企業からであれ、個人からであれ、それは税金の控除となるので ある。日本で患者団体が大きく組織化する場合の墓本となる経済的基盤の違い、システマ ティックな運営方法の欠如は、大きなハンディとなっている。
 

体験談もくじ