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為になるお話その5
庭園状群落を理解しよう

■吾妻山を愛する人に
まずは言葉の説明が必要でしょう。庭園状とは?
そう、人が作った庭のような景観が自然のなかにあるわけです。「群落」は植物の集まりをさす言葉ですから、「庭園状群落」とは庭のような様子を示す植物群落ということになります。

吾妻山の山頂から休暇村の宿舎方面を見下ろしてみてください。天気が良いとまるで「箱庭」のような景観が見られます。ほぼ中央に池があり、芝生の広がったまさに庭のような広々とした原っぱと周辺の雑木林。これを「庭園状」と言わずに何と呼ぶ?
春はタニウツギのピンクの花、夏はレンゲツツジの朱色の花、秋はマツムシソウやリンドウに代表される紫の花。白一面の雪景色の冬を含めて四季のすべてが山好きのハイカー達を魅了します。

ではこの庭園状の群落は自然に出来あがったものなのでしょうか。
いえ、これは人の手が入ったことを意味する人工の景観なのです。人工と言ってもそれを意識して作られた庭ではありません。この草原ももとは周囲の森林と同じくブナの多い森林だったに違いないのです。吾妻山の原生林は「ブナークロモジ群集」と呼ばれミズナラやクリも含めて高木の深い森だったのです。


吾妻山

ではこの森林が何故シバの草原に変わったかと言うと、一に伐採、二に放牧が挙げられます。

比婆山を含めこのあたりは「たたら製鉄」のメッカでもありました。たたら製鉄では大量の木材を必要とします。それらは深山の急斜面にあってはとても伐採や運搬に苦労しますから、なるべく平地に近いなだらかな形状の部分で行われることになります。伐採跡を放置しておけば、長い年月とともに二次林の生育を経て、開かれた部分ももとに戻ったかも知れませんが、先人達はそのなだらかな斜面を利用することを思いつきました。

放牧です。

畜産が産業として脚光を浴びる前から中国地方では農耕や物流の手段として牛馬をたくさん育てていました。昭和に入っての和牛の放牧に至るまで伐採されたブナ、ミズナラの林がもとに戻る余裕が無かったのですね。ですからこれは人工の自然景観というちょっと特殊な位置付けになると思われます。

■吾妻山高原の植物たち
このような草原には放牧地特有の植物相が生まれます。
それは放牧された牛馬が、牧草として食べる植物のみ消えて行き、食べない植物が残ってしまう現象です。
宮島にアセビが多くあるのをご存知でしょうか。あれはシカが毒性のあるアセビを食べないために残ったからなのです。

草原で毒のある植物と言えば、クララ、レンゲツツジなどがその代表です。
かつて吾妻山の春の風物詩と言えばキンポウゲの黄色いお花畑の広がりだったのを覚えています。これはキンポウゲ(正確にはウマノアシガタ)の毒性を嫌い放牧された牛が食べないから残ってしまったようなのです。

レンゲツツジ

それが今ではさっぱり消滅してしまいました。
放牧をやめてしまったから、機械で草刈をしなくてはならないのです。そう、牛は草刈をしていてくれたのです。その点、機械では植物を選定するわけにはいきませんから、草刈時期と植物の生育状況によっては特定の植物は消滅してしまうのです。

クララ

このように植物群落というものは非常にデリケートな性質を持っているのだと言えますね。
ただ、秋にはここを訪れる人達がマツムシソウなどのお花畑を期待していることは誰もが知っていますから、草刈のスケジュールでもちゃんと残してくれています。

夏にはヒヨドリバナが咲き乱れそれにヒョウモンチョウが訪れる。
秋の草原の代表はカワラナデシコ、マツムシソウ、ウメバチソウ。
吾妻山はいつでも私達の期待に応えてくれます。それが草刈時期の調整とか、仕事をする人のちょっとした気まぐれや不注意で大きく変化してしまうこともあり得るかも知れないのです。

自然のままに・・・。この言葉も奥があって、人の介在しない自然なんてもうあり得ないと思うことがあります。山登りだって人が作った山道があって初めて実現するわけですし、人の踏み跡をたどって山頂にたどり着くことだってあるのですから。
だから安全に「山歩き」が出来るのかも知れませんね。
ガイドブックを持って山歩きをしていること自体、先人の踏み跡をたどっていることなのですから。

■比婆山山系の庭園状群落
はっきりと庭園状であると言えるのが、道後山です。
ここには「両国牧場」という放牧場がありました。岩樋山から見下ろす道後山方面の景観に牛が斜面を横に歩いていたであろう踏み跡の帯が確認できます。いずれこれも分からなくなるでしょうから、今のうちに良く見ておいてください。
牛は俊敏で器用な動物ではありませんから、斜面を歩くときも必ず横歩きです。それにより土が固められ斜面に横すじの獣道(けものみち)が形成されたのです。特にこれを「階段状群落」と呼ぶ場合もあります。

道後山

この近辺にはレンゲツツジの群落があります。先ほども言いましたが牛が食べ残した代表的な植物のひとつでしょう。
ツツジ科の植物の中には毒性を持つものが多くあり、低木の多いツツジ科では動物による食害を自衛するには毒性を持つ以外無かったのでしょう。そんなことを考えながら山歩きをするのも面白いでしょう?
レンゲツツジの独特の朱色は「この色の花をつけた木は毒だよ!」と動物に教えているのです。

もっとわかりやすい庭園状の草原があります。
竜王山です。小規模で見渡せる範囲に広がる丘のような場所です。吾妻山よりもっと早くに放牧をやめていますから、今ではいろんな植物が育っていますが、ここだけ草原になっているのはいかにも不自然でしょう。やはり伐採〜放牧の手順を踏んだ庭園状の草原です。

竜王山にて

吾妻山から見下ろす大膳原ももちろんそのひとつです。
初めは単なるスキー場かと思っていましたが、歴史を調べて行くとここが放牧地であったと知り、なるほど庭園状の草原だと理解しました。

このように中国地方には山頂間近に庭園状群落が広がっています。
山頂が近いと言うことは、風が吹き一度伐採されると乾燥の度合いが強く、なかなかもとに戻れないため独特の景観「庭園状群落」が形成されやすいのです。

このような知識を持って山をマクロに見るのも面白いでしょう?
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