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為になるお話その6(rev.c)
南の島のマングローブ

■マングローブとは?
そもそもマングローブという植物はありません。
マングローブとは亜熱帯から熱帯にかけて分布するヒルギなどの仲間の総称で、日本では鹿児島県から沖縄県・南西諸島の河口付近に発達するヒルギなどの林を「マングローブ林」と呼んでいるのです。

ヤエヤマヒルギの育つ河口

ではマングローブと呼ばれる植物にはいったいどんなものがあるのでしょう。
鹿児島県はマングローブの北限ですが、それはメヒルギの群生です。沖縄県それも西表島まで至るとその種類も増して近辺の森林の生態系を左右する重要な植生となります。オヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギ、ヒルギモドキ、ヒルギダマシ、マヤプシキ、ニッパヤシが日本に有るマングローブ植物です。
またマングローブ林の背後にはこれに準ずる仲間も多くあります。サガリバナ、サキシマスオウノキ、アダンなどは大きな群生とはならないまでも、生活圏として沖縄の河口に存在する植物です。

メヒルギ

沖縄を旅行してまず覚えるべきマングローブはオヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギの3種類でしょう。これらは名前からも分かるようにヒルギ科と呼ばれ、ヒルギ科は日本ではこの3つの属、3つの種しか見られません。
沖縄島から西表島まで見られます。

マヤプシギの呼吸根(西表島・由布島前)

マングローブの生態もユニークで、ここでは興味有るマングローブの注目点を整理して勉強して見ましょう。

■ヒルギの生活史
マングローブの林をじっくり見るには、西表島などの川でカヤックに乗って水面からの観察をしてみるといいでしょう。
まず川の塩分濃度を自分の舌で味わってみます。河口からかなり離れているにもかかわらず少々しょっぱいことに気づきます。そうです海水が満ち潮に乗ってかなり奥までやって来るのです。マングローブ林はただの湿地ではなく、干満を繰り返す干潟のひとつなのです。

ヒルギダマシの呼吸根(石垣島・川平湾)

上の写真はヒルギダマシです。海の水をかぶるような場所ではヤエヤマヒルギが優勢ですが、こうして呼吸根を放射状に広げることで、陣地を確保しているのかもしれません。ここを歩いていてこけたら大変なことになりそうですが、ヒルギダマシの呼吸根は先が尖ってはいるものの非常に柔らかく、見た目ほど危険ではないようです。ただし、マヤプシギの場合はとても硬いため、笑ってられないことになります。

それにしても、これだけ塩分の多い水でも立派に育つ樹木があることに普通は驚くことでしょう。ですが決して砂の多い浜辺や磯にはマングローブは発達しません。
潮の干満が重要な要素になっていることは確かです。そして砂地では無く川岸の泥地であること、海水(または汽水)が根よりも高く冠水しても耐えられる性質があることも条件に違いありません。

他の植物がマネできない厳しい条件を好んで生息する植物マングローブはカヤックで近づいて見るだけでも不思議な様相を見せてくれます。
林のそばには黄色に変色した葉が落ちて水面に浮かんでいます。ヒルギは常緑樹なのですがこの葉はどうして黄葉しているのでしょう。これはヒルギ特有の脱塩機能により捨てられた塩分のたまった葉なのです。

水面に漂うオヒルギの落葉

その中に棒状の実も浮かんでいます。でもこれは実では無く胎生種子(発芽し長く伸びた胚軸)と言って、樹上で発芽した種子がやっと落ちてきたところなのです。
オヒルギ水中写真(垂直に浮かんでいます)、これ一枚写すの大変でした。
ヤエヤマヒルギの突き刺さった胎生種子が成長
ヒルギを漢字で書くと「漂木」と書きます。この胎生種子が水面に浮かび漂っている様子からついた名前だったのです。
たまたま干潮の泥地ではこの長い棒は見事に地面に突き刺さることでしょう。水に浮くことが出きれば遠い旅路のはてに子孫を拡散することも出来るでしょう。ヒルギはマングローブ林にしかありえない方法で仲間を増やしているのです。

オヒルギの花

■マングローブの掃除やさん
マングローブ林の地面をじっと観察していると、あちこちからカニが顔を出します。このカニや貝はマングローブの腐りかけた落ち葉を餌にして生きています。腐食食物連鎖といって言わば掃除やさんの役目をおびただしい数の小動物が担っています。
彼らは潮が満ちている間は活動できません。
干満と言うひとつのリズムの中で一生を掃除屋家業で終わるのだと言えます。

しかしそれは閉鎖的な世界ではありますが、これら小動物にとって安全な隠れ家でもあるのです。
それにしても水は清らかとは言えませんね、どちらかと言うと濁っています。大雨の後でもないのにどうしてでしょうか?それはこの川の流れに大量の栄養分が含まれていると考えればとても自然に理解出来るのです。小魚たちにとって栄養分のたっぷり含まれた濁った流れは天敵から身を隠す便利なベールでもあり、流れそのものがレストランでもあるのです。
ミナミコメツキガニ、ミナミスナガニ、リュウキュウシオマネキなど小さなカニたちの活躍したあとは泥土の上に残った「土ダンゴ」を見ればわかります。実はこれ泥の中の腐食物をろ過して残った土なんです。良く見ると一面土ダンゴが広がっています。

当然このカニたちを餌にする鳥たちが忙しそうに歩き回っています。
中には急激な干満の変化について行けなかった小魚が潮溜まりとなった水たまりに残されています。マングローブは鳥たちにも楽園になっているのですね。

マングローブの林の中をカヌーで静かに漂ってみましょう。「パチン!」と大きな音がしませんか?これはテッポウエビが手のハサミを鳴らしている音なんです。ハゼの仲間と共生することで知られるテッポウエビは片手が大きく、時折このような威嚇音を出して侵入者を追い散らします。浜辺には片手の大きいシオマネキ、キバウミニナも見つかります。

この中でとっても可愛い存在がミナミトビハゼでしょう。通称「トントンミー」、良く見るとまぶたを閉じることがあるそうですから、昼寝をしているトントンミーを見たという話も冗談ではなさそうです。
トントンミー

マングローブ林の中に時々見かける澄んだ水たまりは大きなシレナシジミが生息しています。シジミは泥水をろ過してくれます。オヒルギの群落に多いオキナワアナジャコやベンケイガニの仲間は落下したヒルギの葉や幹に付着した藻類の掃除屋でもあります。小さなカニは大きなカニに食べられ、大きなカニはカンムリワシやイリオモテヤマネコの餌になる。これを食物連鎖と呼びます。
食物連鎖の頂点に人間が鎮座しない限り、マングローブの平和は保たれていくのでしょう。

■植物たちの横顔
春から夏はヒルギたちの花の季節です。樹木としては地味に見えるマングローブですが、どれも虫媒花で、ハチなどが蜜を吸いにやって来ます。夜になってもその営みは絶えることがありません。スズメガの仲間の時間です。
当然それらを待ち受けるヤモリなども頑張っています。
サガリバナは夜間労働者の虫たちのために咲いているのでしょうか、強烈な香りをあたり一面にばらまいています。7月中旬の西表島の河川では早朝の川面におびただしい数のサガリバナが浮かんでいてまるで桃源郷にいる感じさえします。



沖縄では夏の昼間は暑いせいか、夜になって咲く花が結構あります。

沖縄の人達にとってヤエヤマヒルギは染物の材料として役に立ってきました。
こうして人々の生活にも役立ってきたマングローブは自然が作った大きな遺産なのです。

川面に浮かぶエゴノキの花

林の中で見るサキシマスオウノキの板根、この大きな板根の意味は何なのでしょう。
不安定な泥地に立つ大木ゆえの精一杯の支えなのかも知れませんね。
水辺に咲くフトモモやセイシカの花、ユウナやナンテンハギの明るい黄花、ミフクラギやヤブツバキ、マングローブは新しい感動を伝えてくれる不思議な世界なのです。

是非沖縄でマングローブ林の中に入ってみてください。以下は7種のマングローブ植物。

オヒルギ
メヒルギ
ヤエヤマヒルギ
ヒルギダマシ
ヒルギモドキ
マヤプシギ
ニッパヤシ
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