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為になるお話その2
そはやき要素

最近広島県に住んでいて、ずいぶん得してるなと思います。何故なら広島はスキー場がたくさんあって大変寒いのに、島嶼部(とうしょぶ)ではいつも春のように暖かい。これって植物相に影響しているんじゃないかなって考えます。
例えば「吉和冠山」にサラサドウダンがある。この植物はだいたい中部地方以北にあるものです。
でも宮島にはモロコシソウが咲く。これは沖縄など亜熱帯にある植物です。
このように寒い地方と暖かい地方の植物が混在するのはとても珍しいことです。
つまり広島県がそれらの境目にあたるというわけ。だからいろんな植物に出合うことが出来るんですね。
暖かい地方の植物が多いということは人並に(?)帰化植物も大変多くなります。およそ日本で見られる帰化植物は広島にはほとんどあると言っても過言で無いでしょう。日本古来の植物ヤマトレンギョウは帝釈峡で見られます。中部地方にあるサラサドウダンが吉和冠山で見られることも驚きのひとつです。

サラサドウダン(冠山)

広島県の植物相を見ていて、不思議に思うことはたくさんあります。
宮島に多いモミノキ。吉和の「もみのき森林公園」にたくさんあるのは理解できますが、宮島のモミノキがある場所「もみじ谷公園」近辺の海抜は海が見えるんだから相当低いですよね。モミノキやツガがあれほど低い場所で生育しているのは瀬戸内海の誕生に起因しているのかな?
同じモミノキが廿日市の極楽寺山にあります。でもこのあたりに普通にあるシロモジは宮島には無い。不思議でしょう?

広島県にある植物で南限、北限となるものは結構有りますよ。
サンカヨウ(メギ科)は良く知られた北方系の植物です。鳥取の大山が南限と図鑑に書いてあります。随分昔、私はこの実を6月に大万木山で見ました。そして翌年5月に花が咲いているのを確認するために登り、見つかったときの嬉しかったこと。
実は吉和村から中津谷川に沿って探検していたら、ある谷で自生しているのを何年か前に確認しています。そこはしょっちゅう崩れる谷で、ルイヨウショウマ、サルメンエビネ、ヤマシャクヤクやウドの宝庫です。おそらく南限地はここだと思います。
そんな発見を自分でしてみるのも一興ですね。

「そはやき」を知っていますか?
「そはやき」は「襲速紀」と書きます。「襲」は熊襲の襲で南九州一帯を指し、「速」は速水瀬戸(豊後水道・四国と九州の間)、「紀」は紀の国つまり和歌山県。
しかしこの変な名前、小泉源一という京都大学の教授が勝手に付けたわかりにくい呼び名なんです。
分布の範囲はだいたい想像できますね、ひとくちで言えば西南日本の植物相の帯のこと。関東地方でもこの植物相を持った地域があり「そはやき要素」であるという表現をします。時代的には相当古い地層の分布です。

そはやき要素の植物として有名なのはキレンゲショウマ、コウヤマキ、ベニマンサク、シロモジなど。もちろん挙げればキリが無いほど多いのです。そう言えばベニマンサクはそはやき要素なのにおおの自然観察の森にしかありません。山口県の錦町あたりの山ではとても多いシロモジですが、芸北では見かけませんよね。でも恐羅漢のふもとにあると言うキレンゲショウマは?例外は常にあるのですから、あまり絶対的な分布ではないのかも。

さて、そはやき要素が分かったら植物を見る目がちょっと変わってきます。
図鑑や植物の説明ではひんぱんに出てくる表現ですから、西日本の植物愛好家としては知っておきましょう。ちなみに「そはやき」は広辞苑などどんなでかい辞書にも載っていない言葉です。漢字で書けるだけでも一目置かれますよ。いずれ緑花試験に出るかも。一度「そはやき」の意味を辞書で調べてごらん、まず分からないから。

そんな体系を展示してあるのが、四国カルストの「カルスト学習館」ここでは館長さんにお話を伺うのがいいですよ。8月初旬ならキレンゲショウマの自生地などつい口を滑らせてくれます。庭には牧野富太郎ゆかりのジョウロウホトトギスなど植えてあります。ヒナシャジン、ヒメユリ、カセンソウ、ナガバノコウヤボウキなどが普通に見られます。

「そはやき要素」が広島県にあることが分かりましたが、他にどんな植物相が見られるのでしょう。
覚えたいものに、「阿哲要素」があります。その代表と言えば、帝釈峡に見られるヤマトレンギョウでしょう。「阿哲」岡山県の阿哲郡のこと、新見市や哲多町,哲西町などの地域をさします。ヤマトレンギョウの区別は難しいのですが、庭に咲くレンギョウ(中国産)と比べて花柄が短く、花びらが長いことで分かります。
朝鮮半島と日本のつながりを示す生き証人である「阿哲要素」は阿哲地域を「植物の正倉院」とまで言わしめた植物区系の要素です。

こんな地球の成り立ちを見てきた由緒ある植物を、簡単に絶滅させてはいけないのです。
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