おもしろ植物・園芸クイズ

第5回目:芸術・文化に表された植物について                                                 真鍋節夫

 

昨年の第3回「緑・花文化の知識認定試験」の結果通知はお手元に届いたでしょうか。

この度の試験の設問をジャンル別に分けて分類してみますと、プロローグで分析した傾向と大きく変化は無いのですが、植物の用途、故事、昔話などを題材としたものが全体の四分の一を占めていました。

また海浜や水生植物などの分野でさえ必ず出題され、昆虫や今話題の多いハーブについて、光合成など科学的知識を問う問題など、出題の分野は偏ることなくあまねく網羅されて試験の水準を保っていることに感心します。

植物写真を掲載し、その植物と人間の生活との関わりを記述し、植物名を問うというパターンは完全に定着しているようです。

この試験のあと、受験した方のお話を総合すると、一年に一回は「受験」という緊張感を味わうことで「目標」や「達成感」を得ることが出来た、とむしろ喜んでおられることが分かりました。人生を左右する「合否」ではなく、笑って振りかえることが出来る試験だから言えることなのですね。

 

模擬問題をテーマごとに分類し、自分で勉強しやすいようにと解説してきましたが、今回はこの試験の名前にもなっている「文化の知識」にまつわるお話をしようと思います。植物が文化として私達に関わってきたことは容易に想像できることと思いますが、日本古来の文化、西洋の文化と大きくふたつにわけてもそれはかなり複雑なジャンルに分類されることでしょう。

過去3回の試験では和洋を問わず美術、文学、宗教などおよそ考えられる植物に関わる様々な出題がなされて来ました。「植物と文化」はこの試験のもっとも大きなテーマなのでは無いかと想像しています。

 

まずは【例題1】

ハイノキ科の植物は酸化アルミニウムを多く含み、焼いて灰を作ります、これを媒染剤として利用されました。次のうちハイノキ科の植物で無いのはどれでしょう。

1・オウバイ

2・サワフタギ

3・ミミズバイ

4・クロキ

5・クロバイ

 

  古来から日本では染物に関する文化が発展し、デザイン、色、模様など独特の様式が各地に残っています。ハイノキ科の植物は日本では20種あまりが知られていて西日本の照葉樹林に多くあります。灰を利用することから灰の木と呼ばれるようになりました。

  この中でオウバイは中国原産で日本には17世紀に渡来したモクセイ科の落葉樹です。漢字では「黄梅」と書きハイノキの仲間ではありません。

                           

【解答1】1- オウバイ

【例題2】

  芝付の 御宇良崎なる根都古草 逢ひ見ずあらば吾恋ひめやも(しばつきの みうらざきなるねつこぐさ あいみずあらば あれこひめやも

  これは万葉集に歌われた 芝付の御宇良崎の娘を慕う男の歌です。

  ここで「ねつこぐさ」は写真の植物を歌ったものとされています。春の草原に咲くキンポウゲ科のこの植物の名前はなんというでしょう。

                                         

1・クロユリ

2・ヒツジグサ

3・ベニバナ

4・オキナグサ

5・ミツガシワ

 

万葉集に歌われている植物は160種あると言われています。出題者としては日本古来の植物名を示して写真を載せ、定説とされている現在の和名を答えさせることはこの試験にはうってつけの問題になると思われます。

万葉の花は研究者も多く、本も多く出ていますので、是非一冊持っていただきたいものです。

ネツコグサは「猫草」あるいは「根付き草」から変化した言葉と言う説がありますが、この時代に猫がいたという確証はありませんから、しっかりと根をはるオキナグサを良く観察していて付いた名前なのでしょう。

                                                                                   【解答2】4− オキナグサ

  このように試験では花の写真が各問いについている場合が多く、写真を見ただけで解答出来る場合も多くあります。万葉集に出てくる花はあくまで定説をもとに出題しているわけですから、写真をつけるべきなのでしょう。なお、ネツコグサはネジバナという説もあります。ネジバナの根もそうとう太いので有名です。

  万葉集で代表的な植物(定説)とされる今の和名をくらべてみましょう。

あきのか              マツタケ                                   いちし           ヒガンバナ

うはぎ                  ヨメナ                                      かたかご       カタクリ

かえるで              カエデ                                       けい             シラン

やまじさ              イワタバコ                                らん             シュンラン

 

【例題3】

 第2回目試験の問い62に面白い問題が出ていました。

次の写真は神奈川県鎌倉市を散策していて路上で見つけた標識です。

                           
マンホールのふたにも同じ文様が入っていました。きっと鎌倉市の市のマークなのですね。この文様は「ササ【    】」と呼ばれ、あたかも笹と【    】の組み合わせのようですが、そうでは無く【     】の植物の葉を表していると言われています。

  秋の草原を代表するこの植物は何でしょう。

              1・キキョウ

              2・アサガオ

              3・リンドウ

              4・キリ

              5・モミジ

 

  村上源氏の家紋として知られる「笹竜胆(ササリンドウ)」は公家・旗本が多く用いたと言われ、三つ笹竜胆、頭合わせ笹竜胆、かげ笹竜胆、笹蔓竜胆などがあります。

  文様を見て植物名を当てることは、そうた易い事ではありません。何故なら文様はあくまでデザインであり、写実では無いのです。しかし花弁の数、葉の形など誇張されてはいますが植物の特徴を知っておくべきですね。

【解答3】3- リンドウ

 

【例題4】これは昨年秋の第3回試験の問51の設問です。

日本の伝統色に「瓶のぞき」と呼ばれる色があります。これはある染料に一回だけつけて染め出した薄い色のことですが、その原料となる植物名を下記の中から選び番号で答えてください。

 

1.ベニバナ

2.ムラサキ

3.アイ

4.クチナシ

5.モモ

  え?「瓶のぞき」?  染物の世界なんてさっぱり・・・と思われた方、草木染めを趣味にされていて答えがすぐにわかった方、受験者の知識ははかり知れません。だから出題して調べるのですね。きっと出題する側の先生方はおおいに結果を楽しんでおられることでしょう。

  勘を働かせようにも「染物」に興味が無ければさっぱり手がつけられない問題です。しかも珍しく写真がついていないのですから、いったい何のことやら・・・。

                                                                                   【解答4】3− アイ

このような推理テクニックの使えない難問が「芸術・文化」の分野に出てくるのです。ではどうすれば良いのか。知識として持ち合わせないものは救いようが無いのが現実ですから、一般常識的に広く知識は習得する心構えを持ちましょう。なおこの試験では終了時に解答集である「解説書」が配布されます。受験者は自分で採点も可能なのです。

この50ページにわたる解説書だけでも植物をテーマにした読み物だといつも感心します。

藍染めでは何十回も染物を「藍瓶」に浸ける作業を繰り返します。ただし1回きりでこの作業を終了させると非常に薄い微妙な色に染まります。これが「瓶のぞき」と呼ばれるものなのです。藍染めでは「浅葱(あさぎ)色」「縹(はなだ)色」「花色」「納戸色」などその色の濃さにより呼び名がいくつもあるのです。

正解しなくとも、そんな知識が身につけば嬉しいではありませんか?

 

【例題5】

宮尾登美子著「天涯の花」は四国の剣山(1955m)の神社の娘とカメラマンの恋愛小説として新聞に連載され話題となりました。その後単行本として多くの人に読まれ、テレビドラマや演劇としても取り上げられました。

この小説は剣山の山頂に咲くある植物を題材として書かれたものです。また宮尾さんはこの小説を書く際に実際にはこの花を見たことが無かったと、後日談で語っています。それほど簡単には見ることのできない花なのです。写真のこの植物の名前は。

                        

           1・ヒメユリ

           2・キレンゲショウマ

           3・ミカエリソウ

           4・リュウノウギク

           5・オオヤマレンゲ

 

文学の話題でも最近のものであれば公平感があります。新聞で話題になったもの、俗っぽい話かもしれませんが、話題になったから問題として扱うことが出来るわけです。

                                                                     【解答5】2− キレンゲショウマ

キレンゲショウマはキンポウゲ科の多年草で、中国地方、四国地方では剣山以外にも自生地があります。植物の分布として「そはやき要素」という植物相の分類があります。

「そはやき」は「襲速紀」と書きます。「襲」は熊襲の襲で南九州一帯を指し、「速」は速水瀬戸(豊後水道・四国と九州の間)、「紀」は紀の国つまり和歌山県。

しかしこの変な名前、小泉源一という京都大学の教授が勝手に付けたわかりにくい呼び名なんです。分布の範囲はだいたい想像できますね、ひとくちで言えば西南日本の植物相の帯のこと。関東地方でもこの植物相を持った地域があり「そはやき要素」であるという表現をします。時代的には相当古い地層の分布です。

そはやき要素の植物として有名なのはキレンゲショウマ、コウヤマキ、ベニマンサク、シロモジなど。

 

【例題6】

俳句の世界では「季語」が使われ、季節を象徴する題材を五・七・五の中に織り込むことによって情感を伝える働きをします。

「冬」の季語となっている植物もいくつかあり、そう言えば寒い時期にはまったく花が無いのかというと、いえいえ、たくさん咲いているのです。この植物名は何でしょう。

                                      

           1・サザンカ

           2・フユザンショウ

3・ヒイラギ

4・ビワ

5・セツブンソウ

                                                                     【解答6】4− ビワ

 

【例題7】

尾方光琳は江戸中期、元禄文化の絢爛たる時代をリードした画家で、独自の装飾画風を確立しました。写実を超え洒脱の中に優雅さを漂わせ、流暢な線と華麗な色を使った織物・染物・陶器・漆器に文様として表現しています。

図の文様も光琳独特のもので、ある植物を意匠化した日本独自のデザインです。

この植物は何でしょう。

                                      

           1・ウメ

           2・サンダンカ

           3・ユキツバキ

4・ナンテン

5・ヤシャビシャク

流れるような曲線の中に、まろやかな図案化した花をつけて光琳独特の世界を描いています。

                                                                     【解答7】1− ウメ

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